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◆第46回 初めて聴いたチャランゴ (24.march.2003)

南米ボリビア チャランゴのしらべ  −福田大治 LIVE IN 盛岡−3月23日(日)18時
ジャズスポット 陸前高田ジョニー(盛岡店)

 知人の熱烈な誘いがあり、チャランゴの演奏会に行ってきた。チャランゴを生で聴くのは初めてだ。まず、チャランゴ(charango)という楽器について簡単に説明しよう。

・南米のボリビアなど、アンデスの山岳地帯で用いられる小型のギター形をした民俗楽器。 
・胴体の割りには幅の広いネックがついており、ここに2弦ずつ5コース、合計10本の弦が張られている。
・胴は木をくりぬいたものが主流だが、アルマジロの甲羅を用いたものもある。
演奏方法はフラットピックを使わずに指で弾くのだが、単弦を弾いたり、掻き鳴らしたりと多彩なテクニックがある。
では、チャランゴのヴィルトゥオーゾ福田大治(通称ダイジート)さんのプロフィールを紹介しよう。
・1997年、世界中のチャランゴの名手が勢揃いする第1回国際チャランゴ・フェスティバル(ボリビア・ラパス)に唯一の日本代表公式演奏家として参加。以後、ボリビアで2年毎に開催される同フェスティバルの常連となる。
・2001年、ボリビア共和国政府およびボリビア・チャランゴ協会(SBC)から、第一線で活躍する一流奏者のみに与えられるコンサート演奏家ディプロマを授与され、現在、ラパスを拠点にチャランゴ・ソロ演奏家として数多くのステージに立っている。ムシカ・デ・マエストロス、ハイメ・フナーロ&グルーポ・ティエラなど有名グループのチャランゴ奏者も務めている。
・ギタリストとしても高い評価を受けており、ハイメ・トーレス、ウイリアム・センテージャス、アルフレド・コカなど、チャランゴの巨匠らの伴奏も務める。

 さて、演奏だが、実に刺激的な夜を過ごすことができた。
「チャランゴという民俗楽器を用いた南米音楽の夕べ」という乗りで出かけていった僕は、最初の曲の和音(簡単に言うと、シンプルな三声による和音ではなく、クラシックやジャズによって開発された和音が用いられていた)で、その誤りに気づかされた。
 この日は伝統的な曲に加えて現代(20世紀)につくられた曲もたくさん演奏された。現地でヒットした福田さんのオリジナル曲も官能的な響きがあり、南米音楽に対する「のどかなフォルクローレ」という偏った先入観が簡単に覆された。福田さんのレパートリーには、ボリビアばかりではなく、周辺の国の音楽もたくさん入っている。「観光客用の音楽」ではなく、「今を生きる音楽」を紹介してくれたのだ。

 といっても、やはり世界の音楽シーンはアメリカの音楽産業に席巻されていて、自国の音楽やチャランゴが脚光を浴びることは少ない。この日、福田さんは12弦のチャランゴも弾いたが 、これなどはボリビアでも演奏できる人が数えるほどしかいない状況だという。
 そのうえで福田さんは「チャランゴはフォルクローレから現代のさまざまな音楽まで幅広く対応できる、可能性を持った楽器です。こんなこともできるんですよ」と言って『大きな古時計』を演奏した。福田さんは「チャランゴ・ミュージック」という音楽世界を築こうとしていると言っていいと思う。

 福田さんは演奏もさることながら、話術にも長けている。
 南米の社会状況や、音楽の歴史などを短い言葉でわかりやすく教えてくれる(筑波大で教壇に立っていたことがあるという。ああいう先生だったら、僕も授業を受けたいと思う)。また、アメリカのイラク攻撃に触れて「我々アーティストたちが反戦の声を上げていかなければならない」と明言され、大きな拍手が起きた。こんなところも、民族衣装を着て『コンドルは飛んでいく』を演奏する人たちとは一線を画す(ただし、『コンドルは飛んでいく』に罪はないのでして、事実、この日のアンコールは『コンドルは飛んでいく』でした)。

 なお、この日はギタリストの犬伏青畝(通称ホセ犬伏)とのデュオだった。ホセ犬伏のギターからは、南米音楽の新しい息吹を存分に感じることができた。僕は彼のギターを聴きながら(地形的には離れているが、文化的には近いスペインの)フラメンコを連想した。スペインではジャズなどと融合した新しいフラメンコが人気を集めている。
 福田さんやホセ犬伏らは、21世紀の南米音楽の流れをつくっていくに違いない。

◆このごろの斎藤純

〇ようやく春めいてきた(嬉しい反面、花粉症にまた悩まされる。トホホ)。冬のあいだ仕舞い込んでいたBMW・R1150ロードスターのバッテリーを交換し、小岩井方面を散歩した。風はまだ冷たく、道路の脇にも雪がたくさん残っていた。スキーを積んだ車のなかから「物好きな奴だなあ」という視線を浴びつつ、短時間だったが、初乗りを楽しんだ。
〇しかし、目を外に向ければ、暗澹たる思いがする。暴力は暴力しか生まない。アメリカはイラク攻撃によって、新たなテロの脅威に怯えている。そして、その脅威は「友好国」にも及んでいる。愚かしいにもほどがある。

アメリカ/サイモン&ガーファンクルを聴きながら