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◆第72回 屋根の上のヴァイオリン弾き ( 1.june.2004)

屋根の上のヴァイオリン弾き
岩手県民会館大ホール 5月21日金曜日 午後6時30分開演

 ご存じ「屋根の上のヴァイオリン弾き」である。ブロードウェイでロングランを記録、日本でも1967年に森繁久彌主演で初演以来(後に西田敏行主演)、挿入歌「サンライズ・サンセット」と共に大ヒットし、知らない人のいないミュージカルとなった。
 が、実はこの舞台を僕は観ていない。「サンライズ・サンセット」のメロディがしっかりと記憶回路に焼きついているものだから、もう何となく観てしまったような気になっていたが(弁解がましいが、これは有名作品の宿命で、よく知られた文学作品が必ずしもみんなに読まれているとは限らない)。
 主な配役のみ記しておく。

テヴィエ:市村正親
ゴールデ(テヴィエの妻):夏木マリ
ツァイテル(長女):香寿たつき
ホーデル(次女):知念里奈
チャヴァ(三女):笹本玲奈
モーテル・カムゾイル:駒田一
パーチック:杉田あきひろ

 舞台は帝政ロシア末期、ウクライナの寒村(ユダヤ人の村)アナテフカ。革命の波が押し寄せつつある不安定な社会状況、ロシア人によるユダヤ人の差別と迫害、貧乏ながら平和な暮らしを守りつづける主人公テヴィエ一家と、彼らを取り巻く人々が描かれる。
 いくつものテーマを持っているが、ユダヤ人差別は(知識としては知っていても)日本人にはなかなか理解されにくい問題なので、日本版では、伝統的な村社会(しきたり)と家父長制が崩れていくようすに焦点が当てられている。

 これは娘を持つ父親には「たまらない」といか「切ない」というか、あまりにも「身につまされる」話だと思う。なにしろ、主人公のテヴィエは5人の娘がいて、次々と(親の反対を押し切り、あるいはしきたりを破って)嫁いでいくのだから。
 という具合に、「屋根の上のヴァイオリン弾き」で描かれている世界は暗いのに、悲惨さはなく、観客の一人ひとりに希望を与えてくれる。 しきたりを破ることは文化を捨てることにつながり、それは民族のアイデンティティの喪失を意味する。だから、テヴィエはしきたりに固執するのだが、結局、娘の「愛」に負ける。つまり、「社会」よりも「個」を優先させるのだが、その根底に「親子の愛」がある。これこそが「屋根の上のヴァイオリン弾き」が世界中で受け入れられ、ロングランをつづけてきた要因なのだろう。ユダヤの「しきたり」は世界共通語とは言い難いが、「愛」は世界共通だから。

 驚いたのは、笑わせる場面が多いことだ。もっとシリアスなものと思いこんでいたので、意外だった。
 たっぷり笑わせておいて、最後の最後にしんみり泣かせるというのは松竹新喜劇のお箱だが、このミュージカルの制作も松竹だ。

 僕は森繁テヴィエも西田テヴィエも観ていないので比較できないが(観ておくべきだったと後悔している)、市村正親は相当なプレッシャーのなかで三代目テヴィエを演じられたことと思う。
 テヴィエとゴールデの場面は演技力(歌唱力も含む)の格段の差を見せつけ(共演者には申し訳ないけれど)、それは拍手の大きさでも明らかだった。決して共演者が劣っているというのではない。存在感の違いと言ったらいいだろうか。ともかく、このお二人にはただただ感服するしかない。もちろん、共演者にも心からの拍手を送りたい。

 「屋根の上のヴァイオリン弾き」の原題は「Fiddler on the Roof」だ。フィドラーとはフィドル弾きという意味で、フィドルはヴァイオリンだ。楽器そのものは同じヴァイオリンだが、乱暴にくくるならばブルーグラスやアイルランド民謡など民俗音楽の場合にフィドルという語を使う。だから、もし「屋根の上のヴァイオリニスト」と訳されていたら、本来のニュアンスが伝わらなかっただろう。 ところで、その「屋根の上のヴァイオリン弾き」はテヴィエの象徴だという。けれど、僕は最後まで意味がよくわからなかった。

◆このごろの斎藤純

〇所属している田園室内合奏団のある日の練習のこと。
「今度の練習は田植えがあるので来られませんので、よろしく」
コンサートマスターの言葉を聞いて、「この言葉を宮沢賢治に聞かせたかった」と思った。田園室内合奏団は賢治の「農民芸術概論」を少しは実践しているのではないか。
〇その田園室内合奏団に、一般公募した管楽器奏者らを交えて誕生した田園フィルハーモニー・オーケストラ(フィルハーモニーは「響きを楽しむ、ハーモニーを味わう」というような意味)の第一回演奏会が矢巾町田園ホールにて6月20日・日曜日(午後2時開演)におこなわれます。当日は東京ゾリステンのソリスト長谷部雅子さん、東京交響楽団主席ホルン奏者の甲田幹雄さんを客演に迎え、ベートーヴェンの交響曲5番(運命)、「サウンド・オブ・ミュージック」などをお送りします。
〇というわけで、本番までもう日がないのに、なかなか練習に参加できず、焦っている。               〇上記前売り券800円(当日1000円)ご希望の方はこのページの一番下にあるアドレスにメールをください。当日、受付で清算できるように手配します。みなさんのお越しをお待ちしています。

チェロと管弦楽のためのヘブライ狂詩曲「シュロモ」/ヨーヨー・マを聴きながら