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◆第92回 北田了一的高品質音楽世界(7.march.2005)

モリーオの音楽家たちII「北田了一とジャズミュージック」 
2005年2月18日(金)午後7時から プラザおでってホール(盛岡市中の橋通り)

 北田さんは「横浜ジャズプロムナードジャズコンペティション」(1995年)でオリジナル大賞と横浜市民賞を受賞されているが、ジャズにとどまらず幅広い音楽活動をしている。
  この日は「盛岡にゆかりのある」オリジナル曲を演奏した。
 テレビの天気情報のBGMとしてつくった曲といった具合に、それぞれの曲の由来を紹介があった。盛岡に腰を据えて活動をしてきた北田さんの音楽は、あえて説明するまでもなく、どれも「盛岡ゆかり」の音楽だと思う(本人もそんなようなことをおっしゃっていた)。

第1部

@ MONOCHROME MIST
A THE GRACE LADY
B LOOKING FOR THE SUN
C NO UNDER EIGHTEEN

第2部

D PRIMARY SCENE
E ふるさとへ
F PARADE OF JUNE
G MOMENTS OF FLOW
H ON DOOR GATE

アンコール HERE IS IT!

共演者を紹介します
岩持芳宏(バリトンサックス、バスクラリネット)
佐藤弘基(ベース)
岩泉大司(ドラムス)
伊藤有美(パーカッション)
太田代将孝(ヴォーカル)

 @とAは、これぞ「北田了一」という感じの美しい曲で、僕のまわりの席からも「いい曲だねえ」という声があがっていた。 Bでは岩持さんがバリトンサックスからバスクラリネット(通称バスクラ)に持ち替えた。バリトンサックス同様、低音の楽器だ。クラシックに馴染んでいる人には珍しくないのかもしれないが、ジャズではあまり使われない(バスクラといえば僕などはエリック・ドルフィーを連想する)。 岩持さんは音楽でユーモアを表現できる方で、ジャズを聴くのは初めてだという方にもそれがちゃんと届いていた。

 Eは太田代さんが浅田次郎さんの小説に刺激を受けてつくった曲だ。遠く離れたところから故郷を想う気持ちを飾らない言葉でストレートに歌い上げた。ちょっと泣かせる曲です。

 Fは「チャグチャグ馬コ」を題材にした曲で、パーカッションの伊藤さんが大活躍で雰囲気をうまく出していた。また、ベースの佐藤さんがボーイング(クラシックのように弦を弓でこする演奏法。ジャズの場合、普通は弦を指ではじいて演奏する)でソロをとった。弓の毛は馬のシッポを使っている。心憎い演奏(演出?)だ。

 北田さんは何を弾いてもうまいのだが、僕はブルーズが凄いと思っている。ブルーズをちゃんと弾けるから、スタンダードをやってもフュージョンをやってもロックをやっても「聴かせる」ことができるんですね。
 ブルーズ弾きには感性一発ゴリゴリと弾きまくるタイプ(ギター弾きに多い)と知性的で都会的なセンスのタイプ(MJQのヴィブラフォン奏者ミルト・ジャクソンがそうでした)があるんですが、北田さんは後者だ。

 Hはそんな北田さんの資質をよくあらわしたブルーズナンバーだった。曲名を声に出して読んでみてください。「オンドアゲイト」ですね。はい、「音頭上げ」とピンときた人はかなり察しがいい。盛岡八幡宮の秋の例大祭のときにしばしば耳にする「きやり」の節が出てきます。

 ところで、ジャズのライヴというと一般的にはスタンダード・ナンバーを演奏することが多い。それが「ジャズの掟」だと思っている方が、ライヴの主催者側にも演奏者側にもいる。これは日本独特のスタンダード偏重主義(スタンダードしか演奏させないというライヴハウスもあるそうで、そうなると偏重主義どころの話ではなく、原理主義ですな)です。
 このように書くと「斎藤純はスタンダードが嫌いなんだな」といわれそうだが、そうではない。同じ曲を演奏してもミュージシャンによって違う音楽になるから、スタンダードも面白い。問題は「ジャズはスタンダードに尽きる」と思っているジャズファンが少なくないことにあるのだ。ま、それはいい。
 ジャズを聴いたことのない人は偏見がないのでオリジナル曲を楽しめるようだ。

 北田さんは共演ミュージシャンを出身校を幼稚園から紹介した。それによると、なんと岩持さんは四高の後輩(ちなみに版画家の大場さんは先輩)、太田代さんは附属中の後輩でした。
 というようなわけで、出演は盛岡出身あるいは盛岡で活動しているミュージシャン、盛岡出身で盛岡在住の版画家大場冨生氏によるポスター、ステージに映しだされるのは盛岡を活動の拠点にしているフォトグラファー松本伸氏の写真と盛岡ずくしのユニークなコンサートだった。

◆このごろの斎藤純

〇発売中の「大人のロック vol.2」(日経BP社)にスティング・コンサートを軸に「ロックは生き方の問題だ」といった内容のエッセイを書いている。立ち読みしてください。
〇仙台フィルハーモニー管弦楽団が今月200回定期公演を迎えた。その記念のパンフレットに仙台フィルを応援するエッセイを書いている。というわけで、ロックとクラシックに関する文章が今月は世に出ていることになる(無節操ですなあ)。
〇年が明けてから雪が多くなった。雪が積もるたびに春が遠のくような気がするのだが、晴れている日は夕方5時を過ぎてもまだ明るく、ずいぶん日が伸びたと実感する。

ミラノ1984/アストル・ピアソラを聴きながら