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◆第100回 箏を聴く(27.june.2005)

箏・二十絃箏 黒澤有美コンサート
2005年6月17日 盛岡市民文化ホール・小ホール

 ニューヨークに活動拠点を移した黒澤有美さん(盛岡市出身)の帰国コンサートがあった。黒澤さん自身のオリジナル作品と現代の作曲家による作品の演奏会だ。満を持して、の感がある。期待して出かけた。

<第1部>
@ 八橋検校:みだれ(作曲年代1661〜1673年)
A 長沢勝俊:錦木によせて I,II,V(野坂恵子委嘱作品・1973年)
B 西村朗:タクシーム 独奏二十絃箏のための(吉村七重委嘱作品・1982年)
C Yumi:Rapture Independent Short Animated Film「Rapture」のための(2003年)

<第2部>
D 吉松隆:なばりの三つ(菊地悌子委嘱作品・1992年)
E Yumi:行(あん) 津軽三味線と20絃のための(2005年)
   津軽三味線:黒澤博幸

 西村朗と吉松隆は好きな作曲家だ。僕のCDラックには純邦楽作品に限っても西村朗の『時の虹彩 箏群のためのヘテロフォニー』と吉松隆の雅楽『鳥夢舞』が収まっている。
 CとEは黒澤有美さんの作品だ。
 意欲的なプログラムで、黒澤さんはみごとに自分の世界を築いた。17世紀の曲と2005年につくられた曲が同じ場で演奏され、それがまったく違和感なく我々の心に響きわたるという演奏会は、他のどのジャンルをみまわしてもなかなかあることではない。刺激的であり、驚きもあり、充実したひとときを過ごすことができた。それにしても、こういうプログラムを見ると、18〜19世紀の作品に固執(執着)しているクラシック音楽の世界が閉塞的で停滞しているように思えてならない。

 一曲ごとに箏を取り変えるので、おや、と思った。どうやら、曲ごとに調絃が違う。調絃には伝統的なものがいくつかあるようだし、新しい調絃もあるようだ。すなわち箏曲の特徴は、曲ごとに箏の調絃を変えることにある(ようだ)。別の言い方をするなら、調絃が曲を左右する(ようだ)。箏においては調絃が重要なのである(ようだ----あくまでも推測にすぎない)。
 使える音が限られている(音域が狭い)ので、同じ旋律の反復が効果的に使われるのが箏音楽の特徴だ。現代音楽でひところ流行したミニマルミュージックとの共通性が感じられた。

 僕は箏をたくさん聴いているわけではなく、門外漢なのだが、それでもCは名曲かつ名演だと思った。Dにアルヴォ・ペルトからの影響が聴かれたのは面白かった(他の吉松作品からは感じられない)。
 E(これを僕は期待していた)は二人のヴィルトゥオーゾのテクニックを存分に堪能することができた。緊張感と迫力にのみこまれるうちにお二人がつくる濃密な世界に僕は運ばれていた。AやCでは、圧倒されて息を飲む間があって拍手が起きたが、この曲では曲が終わるのを惜しむかのような盛大な拍手が送られた。
 欲をいうと、箏と津軽三味線が歩み寄ったアンサンブルを聴かせる部分がもっと充実していれば曲としてもユニークなものになっただろうと思う。まあ、しかし、これはパガニーニにアンサンブルを求めるようなものかもしれない。
 箏を学んでいる方たちや箏曲愛好家はもちろんのこと、初めて聴いた方もこのコンサートは「ただごとではない」と思っただろう。 黒澤有美さんが師事した吉村七重先生も客席におみえになっていて、愛弟子の成長ぶりに大きな拍手を送っている姿も印象的だった。

 箏について簡単に調べてみました。
 我々はふだん「こと」と言い、琴の字をあてている。が、琴(きん)と箏(そう)は別の楽器でして、お正月によく聴くのが箏です。琴は、たとえば竪琴などです。
 伝統的な楽器と思いがちだけれど(実際、十三絃箏は1200年もの歴史がある)、調べてみると黒澤さんが用いている二十絃箏は、野坂恵子さんが1960年代にはじめられた新しい楽器なんですね。
 20本も弦があると音が豊富そうな印象を受けるが、基本的には絃の数しか音程の出ない楽器なので、もっと小さな楽器(ギターやヴァイオリン)よりも音域は狭い。これはネック(棹)のある楽器との構造上の違いからくるものだ。

 音程の不足を補うために宮城道雄は八十絃箏を開発したが(まるでピアノのような巨大な箏です)、これはひろまらず、博物館行きになった。現在は合奏用に低音部の箏もよく使われる。
 ところで、ヴァイオリンやギターでは「弦」と表記するが、三味線や箏などの邦楽器では「絃」と表記します。どういう使い分けなのか謎です。

◆このごろの斎藤純

〇地球温暖化対策シンポジウム(6/19、プラザおでって=盛岡市)を盛況のうちに終えることができました。ありがとうございました。
〇シンポジウムでは太田代将孝さんと北田了一さんによるミニライヴもあり、北田さんのソロピアノ「Primaly scene」太田代将孝さんの「ふるさとへ」が参加者の心を鷲掴みにしていた。
〇来日中のアル・クーパー(僕と同年代のロック・ファンならこの名を聞いて戦慄するでしょう)と会ってきた。いずれ、報告したい。

ザ・プロテクティングベール/スティーヴン・イッサーリスを聴きながら