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◆第111回 イーハトーボの劇列車(28.november.2005)

おでってリージョナル劇場第5回特別公演「イーハトーボの劇列車」
(作/井上ひさし、演出/藤原正教)
2005年11月5日午後2時開演 プラザおでって「おでってホール」

 演劇音痴(演劇嫌いといってもいい)だった私に演劇のおもしろさを教えてくれたのが、おでってリージョナル劇場だ (第3回第4回参照)。このシリーズを毎年楽しみにしている(もう一本は〈みちのく国際ミステリー映画祭〉で上演されるミステリー劇)。今回も期待を裏切らない、いや、期待を遥かに上回る芝居だった。

 宮澤賢治の晩年近くを、虚実交えて描いた芝居である。賢治の周辺に(父親を含め)さまざまな人物を配することで、賢治のひたむきさや純粋さを浮かび上がらせる手法をとっている。このなかで井上ひさし氏は賢治への深い愛情を込めつつ、賢治の弱点を痛烈に指摘する(第7場-伊藤刑事が、農民として中途半端な賢治に「あなたは何者ですか」と問う)。ここが上滑りすると、この芝居全部が白けたものになるのだが、胸に迫る名場面 になった。賢治を神様扱いしない、距離のとり方に井上ひさし氏らしさが感じられる。
 さらに、井上ひさし氏は最後の最後に「日本の百姓はもっと賢くなれ」と煽動する。エンターテインメントに「娯楽」のみならず、「主張」や「思想」を込めているわけだ。これは演じる側にとって難しい脚本に違いないのに、説得力があった。見事というほかない。

 まあ、井上ひさし氏の作品だから、おもしろくないはずがないと言われればそれまでだが、芝居は人が演じてこそ成り立つ。本を読んですむ小説とはそこが違う。
 幸いなことに盛岡には優れた演劇人がそろっている。今回もその総力を結集して(と言っては語弊があるかもしれませんが)、見応えのあるものになった。なにしろ、3時間にも及ぶ長丁場だ。生半可な芝居では、終演のころには客席が空っぽになってしまう。実際には3回の公演全部がほぼ満席だったし(この人気ぶりにも驚かされる)、その長さをまったく感じさせなかった。

 キャストはこれまでのお馴染みの顔ぶれだが、私が贔屓にしている永井志穂さんが出ていなかったのはちょっと寂しかった(もっとも、彼女にふさわしい役はなかったかもしれないが)。そのかわり、江幡平三郎(岩手放送)さんという新たな個性を得た。江幡さんがこれからどんな役に挑戦するかが楽しみだ。

 群衆シーンが素晴らしかったこと(何度も出てくる列車の場面で、賢治独特の擬音を用いて列車の走行を描写 するのはいかにも井上ひさし氏らしい)と、その群衆によって(観客が観ている前で)行なわれる舞台転換が斬新だった。また、車掌役の及川司さんは出てくるだけで舞台をまったく別 世界にしてしまう。怪優と言っては失礼なのかもしれないが、ますますファンになってしまった。

 小耳にはさんだ噂によると、来年のリージョナル劇場は明治期の盛岡を舞台にしたオリジナル脚本だという。今からもう楽しみでならない。

[主なキャスト]
宮澤賢治:大森健一
宮澤政次郎:伊勢二朗
福地第一郎:江幡平三郎
伊藤儀一郎(刑事):鐙浩史
背の高い、赤い帽子の車掌:及川司

◆このごろの斎藤純

〇いよいよ今週末は盛岡文士劇だ。今年はチャンバラの場面 が迫力たっぷりだ(練習は大変だが)。お正月にテレビで放送されますのでご覧いただければと思います。

チェット・ベイカー・イン・トーキョーを聴きながら