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◆第112回 チェンバロと津軽三味線の響き(12.december.2005)

浅見隆平プロデュース活動20周年記念
劔持清之(チェンバロ)&松田隆行(津軽三味線)デュオコンサート
2005年11月6日(日) 午後3時開演 しずくいし音楽館

 津軽三味線がブームだ。いや、ブームというよりも、ポピュラー音楽のひとつのジャンルとして一定の評価を得たといったほうが正しいかもしれない。
 そして、こんにちの津軽三味線は「津軽民謡の津軽三味線」の枠にとらわれず、バンドネオン(アルゼンチンタンゴで使われてきたアコーディオンに似た楽器)のようにジャンルを超越している。大急ぎでお断りしておかなければならないが、これは単に「西洋音楽を津軽三味線で演奏する」という意味ではない(それはそれで難しいことだとは思うのですが、それを東洋と西洋の融合と称するのは安易なような気がしています)。そのことはとうの松田隆行さん自身が一番意識されていて「何を弾こうと津軽三味線を使う限り、根底に津軽民謡が流れていなければならない」と私に力強く語ってくれたことがある。

 松田隆行さんは(改めて紹介するまでもないが)津軽三味線全国大会で3年連続チャンピオンになり、なおかつ(すでに津軽三味線のトップ奏者でありながら)津軽民謡の全国大会に挑戦し、これも征してしまった。
もともと松田さんは幼少のころから民謡歌手として活躍していたが、声変わりのため津軽三味線に転向したという。だから、民謡歌手としての挑戦は「原点回帰」だった。
さらに、故高橋竹山もしばしば強調していたように、民謡をちゃんと歌えてこそ、優れた伴奏ができる(津軽三味線が弾ける)のである。松田さんも同様のことをおっしゃっていた。

 その松田さんが、チェンバロ奏者の劔持清之氏と共演すると聞いたとき、「これは凄いことになるな」という予感がした。なにしろ、チェンバロと津軽三味線のための新作を初演するというのだから、期待して当然だ。
では、プログラムから。

 〈第1部〉
[1]津軽よされ節/津軽あいや節/津軽じょんがら節
[2]J.S.バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 BWV.904

 〈第2部〉
[3]A.ソレル:ファンダンゴ
[4]堀井智則:津軽三味線とチェンバロのための演舞組曲
 第1章 「律動的演舞」二重奏
 第2章 「即興的演舞」津軽三味線ソロ
 第3章 「滑稽的演舞」二重奏
 第4章 「幻想的演舞」チェンバロ
 第5章 「野性的演舞」二重奏

 第1部はそれぞれソロで演奏し、第2部からが共演。[3]はバロック音楽に合わせて津軽三味線を弾くわけで、さすがの松田さんも手こずっていたようだ。
 [4]はバロックやロマン派の音楽はもちろん、ロックも現代音楽も吸収している力作だった。こういう組み合わせの楽曲はおそらく世界で最初だろう。
 本来、津軽三味線は楽譜がない。しかも、即興音楽だ。「津軽じょんがら節」を100人が弾けば、100通りの演奏になるといわれている。したがって堀井氏は「記譜は最低限にとどめた」(プログラムから)という。演奏上は、それぞれの楽器の特色を生かしつつ、チェンバロにも津軽三味線にも「歩み寄り」を求める。「和楽器で西洋音楽を奏でる」というレベルを遥かに越えていて、聴き応えがあった。
 ソリストとしてはもちろん、合唱(盛岡バッハ・カンタータ・フェラインなど)の伴奏でも高い評価を得ている劔持氏のチェンバロは響きが甘く、チェンバロからこういう音色も出るのかと目から鱗が落ちる思いがした。

 面白い本を読んでいると、残りページが少なくなるのが惜しいのと同時に「この先どうなるのか」と早く読んでしまいたいという二律背反が起こる。「津軽三味線とチェンバロのための演舞組曲」は久々にそんな気持ちにさせる音楽だった。

 プログラムに堀井氏は「今回は音色に焦点を絞り、また民族性伝々という理屈も抜きにして、単純明解な世界に徹した」と書いているが、ここであえてそれらについてほんの少しだけ触れる。
 チェンバロは16世紀から18世紀まで器楽の王者として君臨したが、19世紀初頭にピアノにとってかわられた。近年、古楽器復活ムーヴメントによってまた脚光を浴びている。一方、津軽三味線は一般に思われているほど発生は古くなく、100年ほどの歴史だという。
 ピアノほどもあるチェンバロに、ギターよりも小さい津軽三味線の音量が少しも負けないことにも驚いた。
 チェンバロは宮廷で弾かれたから、大きな音である必要なかった。片や津軽三味線に使われる太棹の三味線は屋外で弾かれ、目立つ必要があったから、大きな音が求められた。以上、蛇足。

 この演奏会を企画された浅見隆平氏について触れるスペースがなくなってしまった。感謝と敬意を表すと共に、またぜひこのような場を設けてくださるようお願いします。

◆このごろの斎藤純

〇盛岡文士劇「鞍馬天狗」が終わった。今回はセリフもさることながら、剣劇(チャンバラ)に力点が置かれていたので、動きが大変だった。それだけ見応えのある舞台になったものと思う。なお、この模様は正月にテレビで放送されるので、ぜひご覧ください。
〇12月22日(日曜日)、盛岡市のプラザおでってホールで午後6時30分から「100万人のキャンドルナイト」をおこないます。スローライフの提唱者でキャンドルナイトの呼びかけ人でもある辻信一氏、さらには岩手県民なら誰でもご存じのあの方をスペシャルゲストにお招きしてのトークと、ギター演奏(伊藤隆ギター教室)、弦楽合奏(田園室内合奏団)の音楽でスローな夜をお過ごしください(入場料1000円=協賛金)。問い合わせは実行委員会事務局 田村090−2367−3463まで。

colors/英珠を聴きながら