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◆第143回 祈りのバッハを聴く(19.february.2007)

盛岡バッハ・カンタータ・フェライン30周年記念 ヨハネ受難曲演奏会
2007年1月28日 午後3時開演
岩手県民会館大ホール

 基本的に宗教音楽は苦手(同様に宗教絵画も不得手)なんですが、バッハは別です。
 盛岡バッハ・カンタータ・フェラインは、ヘルムート・ヴィンシャーマンを指揮に迎えて、清らかなバッハを聴かせてくれた。
 盛岡バッハ・カンタータ・フェラインには内外から高い評価が寄せられているから、今さらぼくなどがあれこれ説明するまでもない。「盛岡の宝」と言っていい。

 管弦楽を受け持った東京バッハ・カンタータ・アンサンブルも、美しく、高貴な響きだった。モダン楽器のアンサンブルだが、通奏低音にリュート、ヴィオラ・ダ・ガンバが入っていて、さらには珍しいヴィオラ・ダ・モーレの甘い音色も聴くことができて嬉しかった。

 「ヨハネ受難曲」は演奏する側にとっても、聴く側にとっても難しい曲だ。演奏もさることながら、県民会館大ホールの客席が8割がた埋まったことにもぼくは感激した。

 昨年12月のベートーヴェンの「第九」をお祭りとするなら、こっちは静かな祈りだ。
「ヨハネ受難曲」は教会で演奏される場合、拍手をしないこともあるという。この日もピアニシモで終えた後、両手を体の前で組み、頭を垂れたヴィンシャーマンはまるで祈りを捧げているように見えた。

 一瞬の間があった。その間が余韻となる前に、客席の一部から拍手が起こったのはちょっと残念だった。もう少し余韻を味わってからでも決して遅くはないのに。演奏終了と共に間髪入れず拍手をすることが「通っぽい」と勘違いをしている人が少なくないようだ。

 しかし、その後の長い長い拍手は、本当に素晴らしい演奏に対する感謝の気持ちのあらわれだった。ステージ上ではヴィンシャーマンがソリストや、盛岡バッハ・カンタータ・フェラインの育ての親である佐々木正利氏を讃える。盛岡バッハ・カンタータ・フェラインの何人かが目頭を押さえていた。その姿も美しかった

 後日、盛岡バッハ・カンタータ・フェラインの団員の方から、こんなお話をうかがった。
 「練習ではいつもフォルテシモで終わっていたんです。いただいていた楽譜にもそう書き込んでありました。わたしたちは暗譜するように指導され、頑張って暗譜をして本番に挑みました。すると、本番でヴィンシャーマンさんはピアニシモで終わるように指揮をしたのです」
 練習時とは違う指示にちゃんと対応できたわけだ。経験と日頃の鍛練の賜物だろう。それを見越した上で、ヴィンシャーマンはよりよい音楽をその場でつくられた。
 冒頭に盛岡バッハ・カンタータ・フェラインを「盛岡の宝」と記したが、訂正したい。盛岡バッハ・カンタータ・フェラインは「日本の宝」だ。

〈指揮〉
ヘルムート・ヴィンシャーマン

〈独唱〉
福 音 史 家:五郎部俊朗
イ  エ  ス:多田羅迪夫
ピラト、ペテロ:小原浄二
ソ プ ラ ノ:井上しほみヘラー
ア  ル  ト:佐々木まり子
テ ノ ー ル:鏡貴之(アリア)
バ     ス:佐々木直樹(アリア)

〈管弦楽〉東京バッハ・カンタータ・アンサンブル
第1バイオリン:蒲生克郷(コンサートマスター)、花崎淳生、大谷美佐子、松川裕子、高木聡
第2バイオリン:海保あけみ、桐山建志、吉田篤、長岡聡季
ヴィビオラ:李善銘、深沢美奈、幡谷久仁子
チェロ:大木愛一、西沢央子
コントラバス:田邊朋美
フルート:立川和男、阿部博光
オーボエ:小畑善昭、中根庸介
ファゴット:寺下徹
ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢宏
リュート:永田平八
オルガン:劔持清之

〈合唱〉
盛岡バッハ・カンタータ・フェライン(指導:佐々木正利)

追記:プログラムがとても充実していた。有料でも中身のないプログラムが珍しくない昨今、こんなところにも「良心」を感じた。

◆このごろの斎藤純

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バッハ:無伴奏チェロ組曲を聴きながら