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◆第156回 宮沢賢治を絵で味わう(20.august.2007)

『絵で読む宮沢賢治展 賢治と絵本原画の世界』
萬鉄五郎記念美術館 2007年7月14日〜9月9日

 ユニークな展覧会や活動で我々を楽しませてくれる萬鉄五郎記念美術館で開催中の同展は、賢治の童話をもとにした絵本の原画や賢治の文学に触発されて描いた絵画作品をたっぷりと味わうことができる。また、原稿や書簡、それに賢治が描いた水彩画などの資料もなかなか見応えがあった。

 賢治の研究書が国内外で後を絶たない(それどころか、年々増えつづけている)のと同様に、多くの絵本作家やアーティストが賢治作品を絵本にしたり、絵画作品にしている。
 賢治研究が各方面のそれぞれの専門からのアプローチで多角的に行なわれているように、絵本や絵画作品も実にバラエティに富んでいる。
 展示されている作家の名をざっと名前を挙げると、伊勢英子、高野玲子、朝倉摂、谷内六郎、いわさきちひろ、和田誠と実に錚々たる面々だ。改めて賢治の人気の高さがうかがえる。

 賢治の作品は絵心を刺激するのだという。なるほど、そうかもしれない。賢治の作品は大半が未完であり、それだけ想像力の入る余地が多い。したがって、絵による補足、あるいは説明というよりも、共作あるいは合作といった趣を呈する。
 賢治の作品に触発されて描かれた絵は、絵本の挿絵にしろ、そうでないものにしろ、賢治の作品を読むうえで新たな刺激を与えてくれる。また、そうでなければ、意味のある作品とは言えない。
 だから、もしかすると作家たちはぼくたちとはまったく違う緊張感でもって宮沢賢治と対峙し、作品を描いていると想像できる。

 展示されている挿絵原画を見て、絵本で見るよりもいい、と思った。でも、これは作家に対して失礼なのかもしれない。なぜなら、挿絵は絵本になった段階で完成するのだから。

 いや、やはり印刷物という媒体を通して見るよりも、その筆致からダイレクトに作家の思いが伝わってくるような気がする。原画を見る楽しみは、そういうところにあるのかもしれない。

 同展は幸いなことに子どもたちの夏休みと重なっている。宮沢賢治の世界を、絵を通してぜひ体験してほしい。

 萬鉄五郎記念美術館には全国各地から問い合わせが殺到しているそうだが、同展はこの後、平塚市美術館、下関市立美術館、静岡アートギャラリー、新潟市新津美術館、天童市美術館を巡回する。 一番最初に見られる我々は幸せだ。

◆このごろの斎藤純

○『銀輪の覇者』が今月末に早川文庫から出る。ぼくにとっては初めての上下二巻本だ。文庫化にあたり、若干手直しをした。ストーリーはもちろん変えていないが、文章を少し磨いた。それと、最終章を大幅にカットした。映画化の話もきている。未読の方はぜひ手にとってご覧ください。