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◆第163回 ジョン・ケージを聴く(26.november.2007)

『ジョン・ケージの時間とリズム』
2007年11月10日 盛岡劇場タウンホール
午後3時から、午後6時から(2回公演)

 岩手大学教育学部音楽教育科による画期的にして意欲的なコンサート。ぼくはジョン・ケージの弟子のモートン・フェルドマンが好きでCDをよく聴いているが(拙著『音楽のある休日』にフェルドマン体験のことを書いている)、ジョン・ケージをちゃんと聴いたことはない。 生で聴く機会は東京でもあまりないし、これを逃せば盛岡ではもう二度と聴く機会はないだろう。マリオス小ホールでの盛岡市文化振興事業団設立10周年オルガン・ガラ・コンサートと重なっていたが、タウンホールに行った。 まず、曲目をご覧ください(チラシからコメントも転載)


[曲目]
トイピアノのための組曲(1948)-toy piano

子供用玩具ピアノのための作品で、かわいい音色と不思議なメロディが満載です。

花(1950)-voice, closed piano
ヴォーカル作品ですが、伴奏ピアノは鍵盤のフタを開けません。意外な楽器の使い方に注目。

18の春を迎えた美しい未亡人(1942)-voice, closed piano
ジョイスの「フィネガン前夜祭」の歌詞を切り刻んで使用しています。声楽パートはたった3つの音しか使っていません。

危険な夜(1943-44)-prepared piano
プリペアド・ピアノとは、ピアノの弦の間に様々な異物を挟んで、楽器そのものを全く別物に変身させてしまうケージが発明した技法です。実現困難なため生では滅多に聴けない、貴重な作品です。

フォーエヴァー・アンド・サンスメル(1942)-voice, 2percussion
打楽器ノイズとヴォーカルが拮抗する緊張度の高い作品です。

クレド・イン・アス(1942)-piano, audio, 2percussion
ピアノの他に空き缶、ラジオ、レコード等が使われるユニークな作品で、もともとはコンテンポラリー・ダンス用に書かれたリズミックな音楽です。流されるレコードには有名なクラシック音楽が使われます(2公演で違うレコードを用います)。

[出演]
柿崎幸史/パーカッション
柿崎倫史/ピアノ
鹿糠朋加/ヴォーカル
新宮央子/ヴォーカル
高橋知子/プリペアド・ピアノ
高橋美織/ヴォーカル
名久井悠子/フォノグラフ
新山隆健/トイピアノ 明内泰詠子/パーカッション
板垣アヤ子(パーカッショニスト・岩手大学講師)/パーカッション
山本裕之(作曲家・岩手大学準教授)/解説          

 ジョン・ケージといえば「4分33秒」がよく知られている。ピアノの前に坐ったまま4分33秒間、じっとしているというアレである。これのオーケストラ版もあり、世界初演の映像をインターネットで観た(聴いた)ことがある。これに触発されて、ぼくもギター版の初演に向けて準備を進めている(冗談ですからね)。

 この日は1940年代の作品が演奏された。「4分33秒」以前の作品ということになる。
 トイピアノの曲は、その音色のかわいさとあいまって、「こんなチャーミングな曲をつくっていたのか」と発見があった。パーカッションが盛んに使われていることも改めて知った。
 そもそもプリペアド・ピアノもピアノをパーカッション化した楽器といえないこともない(ガムランを連想させる音色だ)。

 およそ1時間半、適度な緊張感とユーモア、そして熱意と創意に溢れたコンサートだった。客席(満員だった)にはこの種の音楽に初めて接する人も少なくなかったように思う。その方たちは前半だけでお帰りになるだろうと思っていたら、最後まで楽しんでおられた。
 こういう場面で、ぼくは盛岡の文化の底力を感じる。
 盛岡市文化振興事業団も岩手県文化振興事業団も「現代音楽は人が入らない」から主催しない。それは「入ってもらう努力」を放棄していることに等しく、組織名に掲げている「文化振興」に反する。

 パーカッショニストの板垣アヤ子さんが出演されていたので「儲かった」と内心、手を打って喜んだ。山本裕之準教授(作曲家)の解説もよかった。山本さんは出演者全員によるアンコール「Living Room Music」の第2曲(ラップの先駆けのような曲)にも出演され、いい味を出していた。

◆このごろの斎藤純

○友人の結婚式で仲人をつとめた。もちろん初めての経験だ。とてもいい式だったが、やはり緊張して疲れた。
○文士劇の本番が近づいてきた。今年はセリフが今までで一番多い。殺陣もある。さあ、お稽古、お稽古!

シェーンベルク:セレナードOp.24を聴きながら