| 水墨画が好きだ。これまでにこの連載でも第21回、第23回、第59回、第70回に水墨画のことを書いてきた。
お読みいただければ一目瞭然ですが、決して日本美術に詳しいわけではなく、ただ単に水墨画の造形美に心奪われているにすぎない。
水墨画は中国の哲学(思想)を勉強していないと本当のところは理解できない。西洋美術を観るうえで、ギリシア神話と聖書の知識が不可欠であるのと同じことだ。
したがって、ぼくは水墨画を理解しているのではなく、好きで観ているだけのミーハーなファンと言っていい。けれども、逆説的に言うならば、そんなミーハーファンを惹きつける魅力を水墨画は持っている。
残念なことに、我々は油絵には日常的に接する機会があるのに、水墨画を含む日本画に接する機会はごくごく少ない。東京や京都には大きな博物館があり、日本美術専門の美術館があるから見ようと思えば見られるが、地方都市ではそうはいかない。
それだけに本展覧会は貴重な機会だ。
水墨画については室町時代から明治時代までの作品に接することができた。中国から入ってきた水墨画の模倣から、しだいに日本独自のものになっていき、ついには「水墨画=日本美術」にまで高められた流れが一望できる。
水墨画の風景画(山水画)は現実の風景ではないのに、風の音や樹木の香りが感じられて面白い。
水墨画に限らず、本展覧会は日本美術史のダイジェストとしても優れている。しかも、ぼくのような素人にも「日本にあれば国宝か重要文化財クラス」と思う名品も来ている。
これだけのものが、なぜ海外に流出したのか。もちろん、ベルリン美術館はちゃんと購入していったのである。コレクションの経緯は図録に詳しいので、ぜひ入手していただきたい。
海外で日本の名品が愛憎されていることは必ずしも悪いことではない、と図録にある。別にベルリン美術館を「よいしょ」しているのではない。美術品を通して相互理解を深めることが国際間の衝突を防ぐ役割を果たすからだという。これには目からウロコが落ちる思いがした。
ところで、ちょっと気になったことがある。本展覧会のフライヤー(チラシ)やポスター類に『一期一会 日本美術の800年』と書かれている。そのため『一期一会』がこの企画展のタイトルだと思っている方が少なくないようだ。これはサブタイトルのつもりらしいが、それにしては表示が大きすぎる。ひとつの展覧会にふたつのタイトルをつけているようなもので感心できない。
迷いがあると、しばしばこういうことがある。何も迷うことなく、『美が結ぶ絆』展だけでいいと思う。 |