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◆第186回 怒濤のサウンドに酔う(20.October.2008)

「坂田明&ちかもらち/ジム・オルークと恐山:内乱の内覧」ツアー2008
坂田明(alt.sax、clarinet、etc)
ジム・オルーク(guitar,synth.)
ダーリン・グレイ(bass)
クリス・コルサーノ(drums〉

10月14日 花巻市ブドリ舎
主催:岩手ジャズ喫茶連盟
後援・協力: 岩手ジャズ愛好会、IASの会

  10月14日。ブドリ舎(ここは農協だかの倉庫を改装したライヴスペースだ)は燃えた。いえ、もちろん火事ではありませんヨ。

 坂田明さんは歳と共に過激になっていくような気がする。緊張感、スピード感、密度、すべてが度を超えている。その過激さと表裏一体をなして、ひじょうにセンシティヴ&デリケートなものが常に漂っている。

 この日は若手のアヴァンギャルドミュージシャンを従えて、存分に吹きまくり、歌いまくり、唸りまくり、そしてありがたい講話(「無駄な人間などいない。馬鹿野郎だって無駄な人間ではない。馬鹿野郎には、馬鹿野郎という役割がある。それぞれがそれぞれの役割で生きている」など)もあった。

 終演後、関係者一人ひとりと握手を坂田さんは交わす。岩手のジャズ仲間たちとは30年来の付き合いだから、みんな顔なじみだ。ぼくのことまで覚えていて「君とは久しぶりだな」ですと。
 ライヴは拝見しているが、言葉を交わすのは4年ほど前の金丸弘美さんの出版パーティ以来だ。よく覚えているものだ。
私「いつものこととはいえ、今日の演奏も物凄かったです」
坂田さん「オレは吹き出すと止まらなくなるから」
私「後ろからも盛んにたきつけるし」
坂田さん「そうそう、そうなんだよ。たきつけるんだよ。たきつけまくり(と、ひじょうに嬉しそうに応じる)」

 後ろというのはドラムのクリス・コルサーノのこと。9月まではビョークのワールドツアーに参加していたという彼のドラミングには、ドラムセットを提供した菅原昭二さん(ジャズ喫茶一関ベイシー)も「素晴しい」と大絶賛だった。
 もちろん、ギターのジム・オルーク(古いSGを使用。普通のピックのほかに、一円玉から500円玉まで各種、ドライバーなどを使っていた)、つい最近までは「相当ヤバい(坂田談)」ハードロック・バンドでエレキベースを弾いていたというダーリン・グレイの演奏もよかった。

 全体のサウンドはノイズ系とくくられるかもしれないが、そういう枠組みには収まり切らないスケールの大きいバンドだ。

 実はこの日は、大槌町クイーン(岩手県で最も古いジャズ喫茶)の佐々木賢一さんの快気祝いも兼ねていた。佐々木さんはこの夏に脳出血で倒れたが、ぶじに復帰されたのである。
 岩手のジャズ界に多大な貢献をしてきた佐々木さんの元気な姿を見てぼくも安心して、この日のライヴを心ゆくまで楽しんだ。

 会場には岩手県内からもちろんのこと、宮城、山形、秋田のジャズファンやジャズ喫茶店主が集まり、まさに快気祝いのライヴとなったが、坂田さんは「俺のライヴが快気祝いに相応しいかどうか疑問である。また倒れるのではないか」と笑わせた。
 ご存じの方も多いと思うが、その坂田さんも6年前に同じ病で倒れ、「再起不能」と言われながらみごとに現役に復帰した方だ。
 佐々木さんが倒れた直後、坂田さんは電車を乗り継いで佐々木さんを訪れ、リハビリの極意を伝授したという。
 この日はツアー最終日だったそうだが、坂田さんにとっては別の意味でも特別なライヴだったに違いない。

◆このごろの斎藤純

○来月になれば時間ができる……毎月のようにそう思いながら過ごしているが、月が変わっても相変わらず何かに追われるような毎日だ。お金にならないことばかりやらされるが、親譲りの性分なのかもしれない。好きなことだけに専念したいのだが。
○好きなことといえば、故馬場勝彦さんは政界から引退したときに「これからは好きなことをやる」とおっしゃった。たいていの場合、「好きなことをやる」といえば絵を描くとか旅をして歩くということを指すのだが、馬場さんは違った。福祉活動に専念されたのだ。
○馬場さんの場合は「人のために尽くすこと」が、「自分の好きなこと」だった。ぼくは決してそういうタイプではないと自覚している。でも、結果的に自分のことを後回しにせざるをえない状況になっている。そんな中で、上記のようなライヴは「心の休養」と言っていい時間だ。
○それにしても、もろもろの雑用(といっては関わっている方々に大変失礼なのだが)を何とかしないといかんなあ、とこれも毎度の愚痴でゴメンナサイ。

ベートーヴェン:荘厳ミサ曲を聴きながら