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◆第191回 2008年を振り返る(13.January.2009)

 前回につづいて、昨年印象に残ったコンサートなどについて振り返る。

岩手大学教育学部音楽科「20世紀音楽シリーズ」第3弾『楽譜というより説明書 〜シアターピースへの招待〜』
(11月15日土曜日15時〜/18時〜 盛岡劇場タウンホール)
 いつもワクワクするようなプログラムで楽しませてくれる岩手大学教育学部音楽科「20世紀音楽シリーズ」の第3弾のシアターピースとは「演劇的音楽」。音楽は耳で聴くだけではなく、目でも「聴く」という側面もある。その側面をより強調した音楽、といえばいいだろうか。
【プログラム】
1.三輪眞弘:またりさま〜星合の公案
2.マウリシオ・カーゲル:CON VOCE
3.マウリシオ・カーゲル:MIRUM
4.三輪眞弘:またりさま〜対象形妹の公案
5.松平頼暁:Why Not?
6.湯浅譲二:演奏詩「呼びかわし」

 現代音楽はクラシックの流れのなかでも、ひじょうに深刻な音楽が主流をなしている。それだけ深刻な時代を我々は生きているということなのだろう。
 けれども、このコンサートでは比較的ユーモアのある作品が選ばれた。どれも初めて「聴く」作品ばかりだったが(おそらく、聴衆のほとんどがそうだったと思いますが)、クスっと笑ったり、吹き出したり、首をかしげたり……とさまざまな楽しみ方ができた。

 ただ、もっと練習をすれば、もっとよくなったのではないか。
 2の牛山克之氏以外の演奏家(つまり学生たち)は常にどこか不安げで、ときおり弛緩した。
 「バッハやモーツァルトを弾けなければ、現代音楽は弾けない」とはアルデッティ弦楽四重奏団の言葉だったろうか。いや、クロノス・カルテットだったろうか。この言葉を思いだしたのは理由がある。
 実際にクラシック的な技術で楽器を弾く作品は少なかったわけだが、音を出さない音楽のほうが、音を出す音楽よりも難しいということをこの日のコンサートは教えてくれたように思う。

 作品の意味をよく考えてから、ステージに上がってほしかった。 あるいは、学生にとっては作品が大きすぎたのかもしれない。
 ともあれ、このシリーズには期待しているので、これからも果敢な挑戦をつづけてほしい。

『朝枝 信彦・鈴木 弘一ほかアマデウスによる モーツァルトの手紙』
(12月12日午後7時開演 岩手県民会館中ホール)
 NHK交響楽団のメンバー23名による、モーツァルトのセレナード第7番ニ長調KV250(248b)「ハフナー」のコンサート。モーツァルトの姉に扮した吉田瑞穂さんがモーツァルトの手紙を読むという趣向が功を奏し(吉田瑞穂さんの好演が光る!)、楽しみながら名曲の名演を存分に堪能することができた。

 朝枝信彦さんの演奏は、近年の古楽的なものとは違い、ロマン派的でよく歌う。指揮者のいない小編成オーケストラのため、コンサートマスターの朝枝さんが「弾き振り」でリードする。それもなかなか「見応え」があった。管楽器が秀逸だったことも特筆しておきたい。

 なお、NHK交響楽団のヴァイオリニストである鈴木弘一さんは盛岡市出身。朝枝さんについては下記をご参照ください。

〈朝枝信彦・1955年、東京都生まれ。桶川市立桶川北小学校、桶川市立桶川中学校を卒業。東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校中退後、ウィーンにてワルター・バリリとリカルド・オードノポゾフに、ロンドンでノーバート・ブレイニンとナタン・ミルシテインに師事。1980年から1999年までドイツ・マンハイム国立歌劇場のコンサートマスターを務める。 2001年から2007年まで東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の客員コンサートマスター、2005年からは兵庫芸術文化センター管弦楽団のコンサートマスター。「アマデウス・アンサンブル」主宰。〉

◆このごろの斎藤純

○明けましておめでとうございます。今年はこの連載も200回を迎えます。県外からのアクセスも多く、「岩手は文化活動が盛んだ」と羨ましがられているとのことです。今年も発信していきますので、どうぞよろしくお願いします。

リュリ:『テ・デウム』を聴きながら