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◆第215回 イタリアで活躍した岩手の画家(11.January.2010)

 岩手県立美術館で開催中(2月14日まで)の『トスカーナの風に吹かれて 千葉勝』展が素晴らしい。私の好きな千葉勝の魅力を余すことなく伝えている。いや、私は本展で千葉勝の真の姿に触れて、ますます好きになった。

  千葉勝(1926-1987)は水沢市(現・奥州市)出身。1959年にイタリアに渡って以来、かの地を拠点にした。
 イタリアに向った理由がおもしろい。千葉が好んで使ったバーント・シェンナという茶色の絵具が、イタリアのトスカーナ地方の古都シエナに由来していると知ったことがきっかけだったという。

 私が初めて千葉勝を知ったのは、2005年に萬鉄五郎記念美術館・岩手町立石神の丘美術館・もりおか啄木・賢治青春館の3館合同で開催された『岩手の近代洋画100年』展でのことだから、新参者のファンと言っていい。あのとき私は一目見るなり、萬鉄五郎記念美術館の千葉瑞夫館長のところへ「この画家について教えてください」と駆け寄っていた。千葉勝とシエナについてのエピソードをそのときに教わった。

 なぜ、千葉勝に惹かれるのか。
 理由をいろいろ考えているのだけれど、よくわからない。ニコラ・ド・スタール、ザオ・ウーキーというふうに私の好きな画家を並べてみれば、何か共通点がわかるだろうか。でも、それはなんの役にも立たないことかもしれない。

 過日、一宮の三岸節子記念館に行ったとき、まるで千葉勝のような作品があった。本展の図録で、千葉勝が菅野圭介の教えを受けていたことを知った。三岸節子も夫だった菅野から影響を受けている。残念なことに私は菅野圭介の作品をちゃんと見たことがない。いつかぜひ見たいと思っている。
 50年代の作品とイタリアに渡ってからの作品を見ると、後者が明らかに垢抜けしている。トスカーナの風土が画家をいっきに成長させたのだとわかる。
 初めて千葉勝の作品を見たとき、私がテーマにしている「北東北のモダニズム」の究極の姿と出会ったように思った。その思いをこの展覧会でますます強くした。

 好きな絵に囲まれて、私はとびきり幸福だった。そんな気分になったのは、十数年前にメトロポリタン美術館でセザンヌの作品に囲まれて以来のことだ。
 岩手県立美術館はいい展覧会に取り組んでくれた。絵画だけでなく、ステンドグラス(これは必見だ)や表紙デザインなどの展示もあり、千葉勝の別の一面を知ることができた。図録も充実している(千葉勝夫人でアーティストの千葉郁代氏と、佐々木英也元館長が素晴らしい文章を寄せている)。

◆このごろの斎藤純

〇1月15日午後7時から、盛岡市肴町の「風のスタジオ」で、私の「ル・ジタン」の朗読劇(『語りの芸術祭』のプログラムのひとつです)がある。ホットクラブオブ盛岡四重奏団 の演奏もあるため、私はバンドの一員として出演する。ぜひお越しください(前売り券1000円。カワトク、プラザおでってなどで発売中)。

シューベルト:ドイツ・ミサ曲を聴きながら