ローマの名門貴族ボルゲーゼ家の名高いコレクションから選び抜かれたおよそ50点が、イタリア国外で初めて公開された。
いや、もう目眩がするほど凄いコレクションだ。
ベルニーニの〈シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の胸像〉、ラファエロ・サンツィオの〈一角獣を抱く貴婦人〉、ブレシャニーノの〈ヴィーナスとふたりのキューピッド〉、カラヴァッジョの〈洗礼者ヨハネ〉など軽薄な表現を許していただくなら、文字通り「お宝」の山だ。
サンツィオの〈一角獣を抱く貴婦人〉は、後世の加筆によってまったく異なる姿になって伝わっていた。それを修復してオリジナルの作品に戻した過程が紹介されていた。一枚の絵にもさまざまなドラマが秘められているものだ。
また、かつてはカラヴァッジョ作とされてきた〈物乞い〉をはじめ、ジョルジョーネの作品とされていた〈フルートを持つ歌手〉、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品とされていたものの19世紀にマルコ・ドッジョーノ作とされた〈祝福のキリスト〉、やはりレオナルド・ダ・ヴィンチ作とされてきた〈レダ〉なども、それと教えられなければカラヴァッジョ、ジョルジョーネ、レオナルドの作品と信じて疑わないだろう。
本展覧会ではアルキータ・リッチの〈支倉常長像〉(1615年)が特別出品されている。この興味深い肖像画は日本人を描いた油彩画としては最古のものという。
ご存じのとおり、支倉常長は、伊達政宗の命を受けて慶長遣欧使節を率いてメキシコ、スペイン、ローマを訪問した仙台藩士だ。支倉が謁見した教皇パウルス5世はまさにボルゲーゼ家出身だった。 バロック絵画がこうして日本と(もっと言うなら東北と)結びつくなんて! これを観ただけでも東京まで行った甲斐があった。
そういえば、4月25日に仙台の東北大学百周年記念川内萩ホールで、『支倉常長が聴いた西洋の調べ』という古楽のコンサートがある。もちろん、行くつもりだ。
実はこの展覧会でボルゲーゼ家について初めて知った(あいにく私はローマに足を踏み入れたことがないので、ボルゲーゼ美術館についても何ひとつ知らなかった)。
カタログによれば、ボルゲーゼ家は絵を手に入れるためには手段を選ばなかった。犯罪もおかしている。美への執着を物語る史実とはいえ、堂々とそれを公開しているのだから、これもまた恐れ入る。
展覧会場を歩きながら私は昨秋見たイタリア映画『副王家の一族』を思いだしていた。ボルゲーゼ美術館が国家のものとなったのはイタリア統一による。その時代の貴族を描いた映画だ。
誤解を恐れずに言うなら、ボルゲーゼ美術館は「ローマ」の最後の栄光と輝きを今に伝えている。
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