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◆第221回 朗読と弦楽四重奏の競演(5.April.2010)

 昨年12月の『立原道造:作 盛岡ノート』(いわてアートサポートセンター風のスタジオ)からスタートした『語りの芸術祭inいわて盛岡』(主催:文化庁/語りの芸術祭実行委員会)朗読劇全13公演の最終回『浅田次郎:作 ラブレター』が、3月28日(日曜日)の午後2時から石神の丘美術館ギャラリーホールで開催された。

 朗読劇は、登場人物の出入りや顔を横に向けるという程度の動きや、場所によっては照明や音響効果などの演劇的要素を加える場合もあるが、ステージ上の語り手が本を持って朗読をするのが基本だ。
 盛岡では元岩手放送アナウンサーの前田正二さんや畑中美耶子さん、ナレーターの小野寺瑞穂さん、それに現役のアナウンサーである大塚富夫さんらが長く地道な活動を続けてきたおかけで、全国的にも盛んなところとして知られている。『語りの芸術祭』はすべての会場が満員になった。大塚さんらの活動によって、もともと朗読劇を楽しんできた人々が大勢いるからだろう。
 石神の丘美術館ギャラリーホールも144人ものお客さまにお越しいただいた。これは新記録の動員数だ。

 本公演では、盛岡在住の作編曲家長谷川恭一さんが、浅田次郎さんの短編小説「ラブレター」にインスパイアされて作曲した弦楽四重奏曲「ラブレター」が、ラトゥールカルテットの演奏によって披露された。これは朗読のBGMとしてではなく、独立した音楽として演奏するという試みだった。つまり、全4楽章をカットしないでフルに演奏したのだ。
 朗読劇では異例のことである。

 朗読の出演者は長谷川さんの音楽の素晴らしさに「これでは負けてしまう」と感じたという。一方、ラトゥールカルテットのメンバーは朗読に感激しつつ「我々の演奏がこの雰囲気を台無しにするようなことがあってはならない」と通常の演奏会よりも緊張を強いられたという。
 一般に音楽家は活字やビジュアルなメディアに対して「かなわないなあ」と思っている。たとえば、「哀しい」と一言で済むことを、音楽家はピアノやヴァイオリンなどの演奏で伝えなければならない。それは大変なことだと想像がつく。
 逆に役者は音楽に対して「かなわないなあ」という思いを抱いている。美しい旋律が百の言葉よりも雄弁であることを役者は身をもって知っているからだ。
 そんなわけで本公演は、いわば朗読と音楽の一騎討ち、音楽家と語り手が互いにしのぎを削るステージとなった。これがいい緊張関係を生み、客席と一体となった舞台空間が醸成された。
 お客さまの評判も上々で、結果は大成功だった。

 私は美術館というところは人間のあらゆる感性に訴えるものを提供していく場だと思っている。これからも訪れた方の五感を磨くイベントを企画していきたい。
 
 さて、お知らせをひとつ。 石神の丘美術館では、岩手県内に残る「友情の人形(通称:青い目の人形)」を一堂に会し、その数奇な運命と平和への想いをたどる展覧会を開催中です。
 1927(昭和2)年、日米友好と平和を願っておよそ13,000体の人形が、米国からやってきました。人形は、全国各地の小学校や幼稚園へ贈られ歓迎されましたが、太平洋戦争に突入すると敵国のプロパガンダとされて、大量に処分されました。
 しかし、一部の勇気ある人の手によって残された人形があることが、戦後、明らかになっていきます。
 現在、岩手県内には18体の人形が残っていることが確認されており、その内の1体「メリー」が岩手町立沼宮内小学校にあり、大切にされています。
 2010(平成 22)年春、「友情の人形」の発案者であったシドニー・ルイス・ギューリック博士(1860-1945)の孫にあたるギューリック・世より平成の「友情の人形」として、新しく西洋人形「ジャッキー」が岩手町立沼宮内小学校に、「エリー」が一関市立千厩小学校に贈られました。
 今回の展覧会では、現在確認されている18体の人形のうち、17体および関連資料を紹介します。人形たちの80年ぶりの同窓会といっていいでしょう。もちろん、県内初の試みです。この機会をお見逃しなく。

◆このごろの斎藤純

○花粉症の季節です。まいってます。



ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ/マイルズ・デイヴィスを聴きながら