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◆ 第247回 今こそ日常を大切に(10.May.2011)

 震災後、岩手県では予定されていたコンサートのいくつかが中止を余儀なくされた。さらに、国内では(報道ですでにご存じのことと思うが)、いくつかの企画展が中止になった。
 横浜美術館ではロシアの「プーシキン美術館展」が、東京の三井記念美術館ではホノルル美術館所蔵による「北斎展」が、ミレーの所蔵品で知られる山梨県立美術館では「モーリス・ドニ展」が、広島県立美術館では「印象派の誕生」が中止になった。また、東京の根津美術館では、メトロポリタン美術館の収蔵品も展示する好企画だった開館70周年記念特別展「KORIN展」が中止となった。
 岩手県でも、岩手県立美術館の今年度の企画展がすべて中止となった。これは美術界のみならず、各方面に大きな衝撃を与えた。

 そんな中で、私が芸術監督をつとめている岩手町立石神の丘美術館は、予定通り平成23年度の企画展を開催することにした。
 開催中の『マンガの間取りと模型展』が、おかげさまで大好評だ。これは親子そろって楽しめる内容だが、展覧会場のようすを見ると、子どもたちもさることながら、一番喜んでいるのは親たちのようだ。

 一見、あの大災害がなかったかのような光景だ。ある意味で、私はこれを目指していた。これもまたひとつの挑戦なのだ。
 過度の自粛は私たちの日常を萎縮させ、結果的に被災地の復興の妨げになりはしないだろうか。被害の少なかった地域で暮らす私たちが、震災前と同じような日常を送ることが大切なのではないか。そうすることが、間接的に被災地の復興を支援することになると思う。
 もちろん、震災前とまったく同じ日常を送ることなどはできない。また、それでは何も学ばなかったことになる。私たちはガソリン不足と原発事故というエネルギー問題に直面した。それを踏まえたライフスタイルの変換を考え、実践しなければならない。そう思っている。

 今、被災地では疲労に加えて、心の飢えがひろがっている。
 心の飢えは簡単には満たされない。それができるのは、音楽や美術や文学といった芸術文化だ。これは私の信念でもあるが、そんなちっぽけなものよりも現実に阪神淡路大震災がそのことを証明した。
 阪神淡路大震災では、「文化を後回しにしてはいけない」という認識も生まれた。その経験を私たちは活かしていかなければならない。

◆このごろの斎藤純

○震災直後からSAVE IWATEという震災復興のボランティアチームで、支援活動をしている。私は盛岡で後方支援に徹するつもりだったのが、何度か被災地に物資を運ぶことになった。被災地の人々の「心の強さ」に、いつも胸を打たれる。内陸の私たちとのメンタリティの違いを感じているが、そのことはいずれ改めて。

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