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◆ 第248回 震災後の芸術文化 その1 (16.May.2011)

 第246回で、NHK交響楽団アメリカ公演ニューヨークのことに触れた。過日、帰省した鈴木弘一さんから、出発の際の苦労やアメリカでの反応などをうかがった。予定していたメンバーのうち二人が出発できなかったそうだ。そんな中でのニューヨーク公演だった。
 さて、鈴木弘一さんのお嬢さんである鈴木朝子さんのコンサートが、5月7日、もりおか啄木・賢治青春館で開かれた。
 鈴木朝子さんは、1989年生まれ。4歳よりバイオリンを始め、東京芸術大学音楽学部付属音楽高等学校を卒業し、現在東京芸術大学3年在学中。2004年、YBP国際音楽コンクール中学の部第3位、第60回日本学生音楽コンクール高校の部入選。2008年、日本クラシック音楽コンクール全国大会高校の部第4位。2009年、宝塚ベガ音楽コンクール入賞。大阪国際音楽コンクール大学の部第3位受賞と着実に研鑽を積んでいらっしゃる。共演は盛岡市在住のピアニスト三神樹美さん。

 実はこの日、私は岩手県立美術館の館長講座に招かれていたため、コンサートの前半を聴くことができなかった。
 館長講座は、通常、岩手県立美術館の所蔵品にちなんだ内容で原田館長がつとめていらっしゃる。舟越保武生誕100年にあたる今年は、彫刻という広い視野も含めて、舟越保武について語るシリーズが予定されていた。
 ところが、東日本大震災の影響で(正確に記すなら、復興支援に予算をまわすことにしたため)岩手県立美術館では予定されていた今年度の企画展がすべて中止となった。
 そこで、「大震災を前に、美術に何ができるか」というテーマで、公開座談会が開催されることになった。出席は原田館長、萬記念美術館の中村館長、そして私。

 原田館長から、「企画展は中止になったが、美術家本人から特別展を開催したいという申し出など、多くの声が寄せられている」ことや「県立美術館が中心になって沿岸でワークショップを展開し、その作品を企画展示室に並べたい。やるからには、何年もかけて長期的視野でやりたい」というお話があった。
 会場からも活発な意見が出され、「非常事態における美術(芸術)の役割の大切さ」を改めて感じさせる催しだった。

 公開座談会を終えて大急ぎで、もりおか啄木・賢治青春館に駆けつけると、ちょうど第2部がはじまるところだった。
 私が聴いた第2部のプログラムは下記のとおり。

1)シューベルト(長谷川恭一編曲):アヴェ・マリア
2)プロコフィエフ:2台のヴァイオリンのためのソナタ
3)バルトーク:ラプソディ

 1と2は、鈴木弘一さんと鈴木朝子さんの親子共演。二人の演奏スタイルの対比をおもしろく聴いた。3は三神樹美さんとの共演。 バルトークのこの曲は、私の大好きな曲で、たくさんCDを持っているし、もちろん生でも何度か聴いている。この日の鈴木さんの演奏はテクニックもさることながら、バルトークをよく理解しているうえに、何よりもその思い切りのよさに爽快な印象を覚えた。
 後で聴いたところによるとイザイの無伴奏ヴァイオリンソナタ(これも私の大好きな曲だ)が出色の出来だったとのこと。これを聴けなかったのは残念でならないが、20世紀の作品に何ら違和感なく挑戦できるのは、新しい世代の特徴だろう。
 また、この日初めてプロコフィエフやバルトークを聴いた方も少なくかったと思うが、それでも口々に「言い演奏だった」と大きな拍手が送られた。
 たとえ聴いたことのない作品だろうと、音楽の神髄はちゃんと伝わるのである。

 公共ホールでは、動員数を重要視するあまり(費用対効果という芸術にはふさわしくないモノサシがしばしば用いられる)、音楽の中身がときとして脇に追いやられることがある。そのため、あまりポピュラーではない作品に接する機会を失っているが、新しい聴衆を得るためにもこれまでの姿勢を見直すべき時期を迎えているとはっきり言っておこう。

◆このごろの斎藤純

○東日本大震災被災地支援チームSAVE IWATEの活動、バンド活動(震災後はチャリティコンサートの引き合いがきている)、『街もりおか』編集発行、岩手町立石神の丘美術館芸術監督と忙しく動きまわっている。身も心もパンク寸前のときに救ってくれるのが、上記の演奏会や美術館賞の時間だ。
 公開座談会のあった日、岩手県立美術館二階で舟越保武の彫刻や松本竣介のタブロに囲まれて短い時間を過ごした。盛岡に生まれてよかった、とつくづく思った。

マーラー:交響曲第4番を聴きながら