トップ > 目と耳のライディング > バックナンバーインデックス > 2011 > 第253回




◆ 第253回 印象派の名画の謎解き (25.July.2011)

青森県立美術館開館5周年記念
『光を描く 印象派展 −美術館が解いた謎−』

2011年7月9日(土)〜10月10日(月・祝)
休館日:7/25,8/22,9/12,9/26
開館時間:9月30日まで 9:00-18:00(入場は17:30まで)
10月1日より9:30-17:00(入場は16:30まで)       

平泉が世界文化遺産に登録された。
東日本大震災で大きなダメージを受け、日々苦しんでいる東北の私たちにとって、これは精神的な大きな支えとなってくれるだろう。

金色堂は改めて言うまでもなく、その重要な構成要素のひとつだ。小学生のとき、初めてここを訪れたときは「宝物」という印象を持った。大人になってからは「こういう金ピカは趣味に合わない」と思うようになった。しかし、30代になってから、金色堂の奥深さが少しずつわかるようになってきた。

他県から訪れた友人たちを金色堂に案内すると、「こんなに金ピカではありがたみがない」と言う人が少なくない。私が若いころに抱いていた印象と同じだ。
「でも、これができた当時はこうだったわけで、当時のありのままの姿を再現しているんですよ」
というと、納得してもらえる。どうしても私たちは歴史遺産というと経年変化によって渋くなったものをありがたがりがちだ。ちなみに、エジプトのピラミッドも、建造当時は表面がツルツルに磨かれていて、陽光をギラギラ反射していたという。

建造物だけではなく、絵画にも似たような例がある。 何百年もの間に絵の表面に付着した煤や埃を落としたら、渋い色合いの暗い画面の絵と思われていたものが、実は鮮やかな色彩を用いたものだった……というように。

青森県立美術館で開催中の印象派展では、そのような例をいくつも観ることができる。
というのも、これはドイツ屈指の印象派コレクションを誇るケルン市ヴァルラフ・リヒャルツ美術館/コルブー財団の補修修復部門が中心となって2005年から2009年にかけて行なったリサーチ・プロジェクトの研究成果を公表するという内容だからだ。
補修修復の課程で、キャンバスが切断されていることが明 らかになったり、後から別の人によって塗り重ねられた跡が見つかるなど印象派絵画の 知られざる秘密が解きあかされた。これまでもそういうことを紹介した書籍はあったが、実物の絵画でそれを観ることができるのだから、ユニークで興味深い企画といっていい。

東日本大震災の影響で、海外からの美術品の持ち出しが慎重になっているこんにち、この企画展を開催することで真の友情を示してくれたケルン側の関係者に心から感謝をしたい。
また、青森県立美術館と関係各位にも心からお礼を申し上げたい。これまでとは違った気持ちで私はありがたく拝見した。こういうときだからこそ、文化を後回しにするようなことがあってはならない。その思いを強くした。

ところで、青森県立美術館は新しい考え方を反映している施設なのでレストランが広いし、ギャラリーショップも充実している(それにひきかえ、岩手県立美術館のギャラリーショップはひどすぎる)。ところが、残念なことに肝心の展示室の構造に問題がある。
展示する側も苦労すると思うが、観る側も「どういう経路でまわればいいのか」がわかりにくい。
たまたまた三菱一号美術館学芸員の安井裕之さん(元岩手県立美術館学芸員)が東京からいらしていて、久しぶりにお目にかかった。その安井さんも「ここは何度来てもわかりにくい」と苦笑していた。

◆このごろの斎藤純

〇去年の今ごろは蓄積疲労のため顔面神経麻痺を患い、完治するまで半年ほど要した。今年はなるべる休養をとるように心がけている。何やるにも体がだいいちだ。歳下の友人を病で失ったのを機に、健康管理の大切さを痛感している。

新しい音楽/フランク:交響的変奏曲を聴きながら