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◆ 第256回 本物の音楽を届ける活動 (12.September.2011)

 今、ほとんどの家庭では音楽をテレビで楽しんでいる。残念ながらテレビから流れてくる音楽は、ジャンルがひじょうに偏っている(ラジオも同様の状況だが、テレビよりはまだましかもしれない)。
 付け加えると、たとえばジャズやクラシックをテレビで聴いても、その本当の魅力はなかなか伝わってこない。やはり、生で聴くに限る。
 ところが、首都圏などの大都会以外では、音楽を生で聴く機会はそう多くない。ホールなどの施設のない地域では言わずもがなである。
 財団法人青少年文化センターがおこなっている青少年劇場小公演は、そういう地域に「本物の音楽」を届ける活動だ。
 ジプシーヴァイオリンの古館由佳子さんとアコーディオンの達川葉子さんによる青少年劇場小公演は、2011年9月5日から8日にかけて、盛岡市・岩手町・岩泉町・釜石市の8つの小中学校をまわった。そのうち岩手町の北山形小学校と岩泉町の釜津田小学校の公演を聴いてきた。

 古館由佳子さんは桐朋学園大学音楽学部を出ているから、もともとはクラシックを学んでいた。ところが、卒業後にジプシーヴァイオリンに専念するようになる。
 クラシックには、ジプシー音楽の旋律が取り入れられた作品が少なくないこともあって、たいていのクラシックヴァイオリニストはジプシーヴァイオリン風に弾くことができる。ことに超絶技巧を見せつけたいときにジプシーヴァイオリンは効果的だ。
 が、クラシックのそれと本物のジプシーヴァイオリンは似て非なるものといっていい。
 クラシック音楽映画の近年の収穫である『オーケストラ』で、クラシックヴァイオリニストがジプシーヴァイオリニストの奏法に目を丸くするシーンがあったのを記憶されている方もいらっしゃるだろう。
 古館さんはジプシーヴァイオリンの本場のハンガリーで、「本物」のお墨付きを得ている。「血」で演奏される音楽の世界で、これは希有なことだ。

 今回の小公演では、ハンガリーのジプシー音楽のほかに日本のメロディやクラシックの名曲など1時間ほどのプログラムが組まれた。私は古館さんがジプシー音楽以外の曲を演奏するのを初めて聴いた。何だか得をしたような気がした。
 子どもたちは古館さんの演奏に体をゆすったり、手拍子を打ったりと大いに楽しんでいた。子どものころにこのような本物の音楽に接しておくことはとてもいいことだ。ある意味では東京にいては、経験することのできない音楽体験かもしれない。

 古館さんの伴奏をつとめたアコーディオン奏者の達川葉子さんは、ファッション・フォトグラファーの経験を持つ異色の音楽家だ。古館さんの緩急自在の演奏をよくサポートし、雰囲気を盛り上げていた。

 古館さんは東日本大震災で甚大な津波被害を受けた宮古市鍬ケ崎の出身だ。ご実家は被災したものの、ご両親は無事だった。そんな古館さんの演奏には、以前にもまして「凄味」が宿っているような気がしてならない。
 なお、古館由佳子さんとあんべ光俊さんによる東日本大震災チャリティコンサートが、10月9日プラザおでってホールでひらかれる(問い合わせ019-604-3303もりおか女性センター)。お楽しみに。

◆このごろの斎藤純

〇県内在住の作家12人が短編作品を持ち寄った『12の贈り物』が出版された。この収益は東日本大震災の義援金にあてられる。

ザ・スインギング・ギター・オブ・タロ・ファーロウを聴きながら