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◆ 第259回 古くて新しい弦楽合奏団の響き (10.November.2011)

イ・ムジチ合奏団結成60周年アニヴァーサリー・ツアー
盛岡市民文化ホール大ホール
2011年10月26日(水)午後7時開演

 イ・ムジチ合奏団といえばヴィヴァルディの『四季』、『四季』といえばイ・ムジチ合奏団というくらい、イ・ムジチ合奏団と『四季』の結びつきは深い。
 実際、イ・ムジチ合奏団による『四季』の大ヒットのおかけで、ヴィヴァルディは広く知られるようになったし、イ・ムジチ合奏団の名を不動のものにした。クラシックをあまり聴くことがない人にも、イ・ムジチ合奏団の名は知られている。
 一方、クラシックファンはイ・ムジチ合奏団をあまり熱心に聴いていないような気がする。
 私もその一人なのかもしれない。というのも、イ・ムジチ合奏団といえばバロック音楽と思いこんでいたので、結成60周年を迎えた記念コンサートのプログラムを見て、とても驚いた。イ・ムジチ合奏団がまさか現代の音楽を演奏するとは!

第1部《イ・ムジチの「オスカー」》
1.〈イ・ムジチ結成60年記念作品〉ルイス・バカロフ(1996年アカデミー賞作曲賞受賞):「イル・ポスティーノ」より 合奏協奏曲(ヴァイオリン:アントニオ・アンセルミ)
2.〈イ・ムジチ結成60年を祝して〉
エンニオ・モリコーネ(2007年アカデミー賞名誉賞受賞):『組曲』「カジュアリティーズ」より"メインテーマ"、「海の上のピアニスト」より"愛を奏でて"、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」より"デボラのテーマ"、「ミッション」より"ガブリエルのオーボエ"(ヴァイオリン:マルコ・セリーノ)
3.〈イ・ムジチ結成60年のために〉
坂本龍一(1988年アカデミー賞作曲賞受賞):「ラストエンペラー」より「ラストエンペラー」テーマ

第2部
《イ・ムジチの「四季」》
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」(ヴァイオリン:アントニオ・アンセルミ)

イ・ムジチ合奏団は1952年にローマの聖チェチーリア音楽院の卒業生12名が集まって結成。楽団名は、イタリア語の「音楽家たち」に由来する。
バロック音楽の専門家と思っていたが、上記のとおり、レパートリーにはなんと坂本龍一の作品もある。
ソロはアントニオ・アンセルミとマルコ・セリーノが曲によって代わる。アントニオ・アンセルミは、テクニックはもちろんのこと、その風貌とあいまって「パガニーニの再来」を思わせた。

イ・ムジチ合奏団は多くの室内合奏団と同じように指揮者をおかない。指揮者の個性や解釈による演奏ではなく、楽団員の総意に基づく演奏を聴くことになる。60年のあいだにメンバーは入れ替わっても、明るく、楽しい(と簡単にまとめては語弊があるかもしれないが)イ・ムジチ合奏団の特長は連綿と受け継がれている。
 その一方で、新しいレパートリーに見られるように、時代の流れもちゃんと捉えている。古くて新しい合奏団なのである。

 東日本大震災後、キャンセルする演奏家が相次ぐ中、岩手まで来てくださったイ・ムジチ合奏団にまず感謝したい。鳴りやまぬ拍手には同じ思いが込められていたと思う。
 そして、私たちの拍手に応えて4曲もアンコール曲を弾いてくれたことにも感謝したい。
 アンコール曲は、チェリストが日本語で紹介した。ロッシーニの(おそらく弦楽協奏曲から)「ボレロ」、日本の音楽から「赤とんぼ」(イ・ムジチ合奏団による演奏は、まるでアイルランド音楽のように聴こえた)、「サンタルチア」、ところどころ『四季』がまぎれこむオリジナルアレンジの弦楽合奏曲(すみません、曲目不明です)。

 クラシック音楽の神髄を聴くという類の堅苦しいものではなく、「クラシック音楽はこんなに楽しいんだよ」というコンサートだったと思う。

◆このごろの斎藤純

〇盛岡文士劇の稽古が進んでいる(私は例によって、まだセリフを覚えられないでいるから、ちっとも進んでいないわけだが)。今年の演目は『世界遺産だよ、狸御殿』。私はバカ殿の役なのだが、「当たり役」(内館牧子さん談)とか「駄目男をやらせると純の右に出るものはいないな」(高橋克彦さん談)と嬉しいような哀しいような評価をいただいている。

マーラー:交響曲第10番を聴きながら