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◆ 第267回  芸術による復興支援 (19.March.2012)

 2002年夏、小澤征爾氏と故ムスティラフ・ロストロポーヴィチ氏が、若い音楽家からなる小編成オーケストラを率いて岩手県内(一部秋田県)各地でホームステイをしながら無料のコンサートを行なった。彼らの目的は、若手の音楽家の育成と、生の音楽に触れる機会のない人たちにもクラシック音楽を気軽に楽しんでもらうという2点だった。これをコンサート・キャラバンという。
 コンサート・キャラバンは2005年にも実現した。

 コンサート・キャラバンが画期的な取り組みだったことは改めて言うまでもない。ここで私が強調しておきたいのは、これを単発の音楽イベントに終わらせなかったことである。
 これを支えた地元のボランティアスタッフが、コンサート・キャラバンのメンバーとの「縁」を大切に育み、その後もコンサートなどの活動を続けている。

 東日本大震災後もその活動は行なわれた。コンサート・キャラバンは沿岸各地を巡ったので特に縁が深い。かつて訪れてホームステイなどでお世話になった沿岸の地で、恩返しをしたいというメンバーらの強い希望があった。
 芸術による復興支援『サイトウキネン・オーケストラのメンバーによる室内楽inいわて2012』も、コンサート・キャラバンのおかげで実現したものだ。
 メンバーと公演日程は下記のとおり。

〈メンバー〉
松浦奈々(ヴァイオリン/日本センチュリー交響楽団アシスタント・コンサートミストレス)
直江智沙子(ヴァイオリン/紀尾井シンフォニエッタ東京シーズンメンバー)
大島亮(ヴィオラ/読売交響楽団、東京フィルなどで首席奏者として客演)
門脇大樹(チェロ/レッジョエミリア音楽院を首席で卒業〜アムステルダム音楽院)
辻本玲(東京芸大を首席で卒業〜ベルン大学)
〈公演日程〉
3月 9日宮古市 山田公民館

  10日二戸市 老人ホーム「あったかセンター」(入所者のみ)
          阿繁ギャラリー

    盛岡市 盛岡中央公民館

  11日山田町 「鎮魂と希望の鐘」除幕式

※11日は、いわてフィルハーモニー管弦楽団のメンバーと合同演奏(いわてフィルについては、改めて紹介したい)。

 メンバーは小沢征爾氏が毎夏、長野県松本市でコンサートを開いてきたセイトウキネン・オーケストラに参加したことがある若手の第一人者、将来有望な音楽家たちだ。中でも大島亮さんは、コンサート・キャラバンに参加して岩手県内各地をまわった経験がある。
このうち、私は盛岡中央公民館のコンサートを聴いた。
 プログラムはモーツァルトの「ディベルティメント」K.137から、シューベルトの弦楽五重奏から第1、第2楽章。それに、ヴァイオリンのデュオでヴィエニャフスキの「エチュード・カプリース」、チェロのデュオでジャン・バリエールの「2本のチェロのためのソナタ」(オリジナルはヴィオラ・ダ・ガンバのための曲らしい)、ヴィオラ独奏で「翼をください」。

 彼らの演奏から私はいろいろなものを感じた。テクニックがしっかりしているのは当然だ。何よりも表現力が豊かだ。一人ひとりが音楽としっかり向き合い、打ち込んでいる姿が伝わってきた。
 会場にはクラシック・コンサートでよく見かけるクラシック・ファンの姿もあったし、クラシックは初めてという方も少なくなかった。そのどちらからも、「素晴らしかった!」という声を聞いた。 彼らの演奏活動の中では小さなコンサートだったに違いないけれども、東日本大震災の被害地岩手で演奏をした経験はこれからきっと大きく役立つだろう。

◆このごろの斎藤純

○私がセンター長を仰せつかっている「もりおか復興支援センター」は来年度も継続されることになった。場所は旧農林中金跡のビルで、盛岡に避難しているおよそ750世帯の復興支援活動の拠点となっている。震災後1年を経て、実はこれからが支援の正念場だ。気持ちを引き締めて取り組んでいきたい。

ヒロシマ・レクイエム/細川俊夫を聴きながら