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◆ 第269回  廃墟の画家ユベール・ロベールを観る (16.April.2012)

『ユベール・ロベール 時間の庭』展
国立西洋美術館 2012年3月6日(火)〜5月20日(日)

 18世紀にヨーロッパでは「博物学」が興隆した。世界各地への探検調査隊の派遣や発掘調査によるものだ。

 そんな中、古代遺跡の廃墟の美が発見されていく。「廃墟の画家」と呼ばれるユベール・ロベール(1733-1808)はその代表だろう。

 ユベール・ロベールが生きていた時代、絵画といえば宗教画や肖像画を指し、風景画はかなり低く見られていた。封建制度の社会では、美術にもヒエラルキーが歴然とあった。

 そういう意味で、聖書や神話に依らない風景画を描きつづけたユベール・ロベールの姿勢は、後の印象派に通じるものがある。

 しかし、ユベール・ロベールは廃墟をそのままキャンバスに写したわけではない。古代遺跡の丹念なスケッチをもとに、理想の風景を描いた。そういう意味では、ユベール・ロベールより100年ほど前に活躍したクロード・ロランの後継者でもある。

 クロード・ロランにとって風景は人物の背景だったのに対して、ユベール・ロベールは風景が主役という違いはあるけれど。

 廃墟や朽ちていくものに「美」を感じるのは日本人の特性だ。だから、ユベール・ロベールの世界には抵抗がなく、すんなりと入っていける。

 サンギース(鉛筆が登場する前に使われていたチョーク)によるスケッチもたくさん観られたのも嬉しかった。私はタブロー(完成した油絵)より、スケッチに親密なものを感じる。

 上野の国立西洋美術館のコレクションは、松方幸次郎(明治の元勲で総理大臣も務めた松方正義の三男)が第二次世界大戦前に収集し、敗戦を機にフランスに没収され、後に返還された「松方コレクション」がもとになっている(すべてが返還されたわけではなく、一部は今もオルセー美術館に展示されている)。

 その後もコレクションを増やしてきているが、最近になってその方針を「有名画家の三流作品を集めるのではなく、無名画家の作品であっても優れているものを買う」と軌道修正をした。

 ユベール・ロベールもその方針に則ったコレクションといっていいだろう。ユベール・ロベールは名前こそ知られてはいないが、日本人好みの作品なので、きっとこれから浸透していくに違いない。

◆このごろの斎藤純

〇国立西洋美術館がある上野公園を訪れたのは4月初旬、花冷えの週末だったが、大勢のお花見客で賑わっていた。そのころ、盛岡はまだ冬を引きずっていたから、あまりの季節の違いに驚かされた。

ブラームス/交響曲1番を聴きながら