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◆ 第273回  ニューヨーク発 指揮者のいない小編成オーケストラ (11.JUN.2012)

2012年5月30日 北上市さくらホール 午後7時開演
オルフェウス室内管弦楽団with五嶋龍コンサート

 はたと気がついたのだけれど、この連載でオルフェウス室内管弦楽団を取り上げるのは二度めですね。前回は2005年6月だから、ちょうど7年ぶりだ。しかも、前回と同じ曲がプログラムに組まれている。
 まずは、今回のプログラムをご覧ください。。

@ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
Aベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
Bメンデルスゾーン:交響曲 第4番「イタリア」op.90

 オルフェウス室内管弦楽団は指揮者を持たない。メンバーが総意で音楽をつくっていく。そのようすをドキュメンタリー映画で観たことがあるのだが、まるで喧 嘩だった。ところが、その喧嘩みたいな練習の後、和気あいあいと食事のテーブルを囲む。日本ではちょっと考えられないメンタリティというか合理性という か。
 それはさておき、同じ曲というのはAで、ソリストに2005年はジョシュア・ベルを、今回は「天才少年」の五嶋龍を迎えた。

 映画音楽でも活躍しているジョシュア・ベルはとてもモダンなベートーヴェンを聴かせてくれた。それに対して五嶋龍はベルよりも若いのに、オーソドックスと いうか正統的というか、いかにも古典音楽らしい演奏だったように思う。ふたりに共通しているのは、ベートーヴェンの音楽が持つ自由闊達な精神が存分に表現 されている点だ。
 私の友人は五嶋龍さんの演奏について「目の前にベートーヴェンがいるような気がした」と語った。なるほどなあ、と私も頷かないではいられなかった。
 ところで、五嶋龍さんを「天才少年」と記したが、もう立派な青年になっていて、認識を改めさせられた。

 この曲はティンパニで始まる。出だしの部分をコンサートマスターかソリスト(五嶋龍)が合図をするのだろうと思って注視していたが、誰の合図もないまま、 ティンパニが叩き始めた。もしかすると、コンサートマスターとアイコンタクトを取ったのかもしれないが、私はティンパニが主導権を持っていたように感じ た。
 こういうところにも指揮者のいない楽団の妙味、おもしろさがある。

 Bあたりになると、指揮者代わりをつとめなければぱないコンサートマスターは大忙しだろうと予想していたが、これも外れた。あるところでは管楽器が、ある ところではチェロが、指揮者の代わりをつとめていたようだ。メンバーの総意による演奏ということがこれらのことからもわかった。
 ちなみに、曲ごとにコンサートマスターが交代するのもオルフェウス室内管弦楽団の特長だ。全曲を独りのコンサートマスターが担うのは、いくら総意に基づく演奏とはいえ、負担が大きすぎるのかもしれない。

 そのBは、メンデルスゾーンがイタリア旅行の際に発想したらしいが、イタリアらしさを感じさせるのは第1楽章と第4楽章で、第2楽章などはイタリアから離れ、メンデルスゾーンの出自をうかがわせる哀愁ある旋律が聴ける。そして、今回の演奏ではこの楽章が素晴らしかった

 アンコールはメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』からスケルツォと、シューベルトの付随音楽「ロザリンデ」よりバレエ音楽第1番。アンコール曲の紹介はコンサートマスターをつとめることもある佐藤瑛里子さん(1975年入団)が日本語で紹介した。

◆このごろの斎藤純
〇 今シーズン、90キロに及ぶ山岳コースを二度サイクリングした。「坂道は嫌いだ」と心の中で嘆きながらも、どうにか挫折せずに走りきっている。軽いロードバイク(ツール・ド・フランスなどの長距離競技用の自転車)のおかげだ。今年は八幡平アスピーテラインを越える計画があり、そのトレーニングも兼ねて、今後も網張などをサイクリングする予定だ。
〇 サイクリングのおかげか、健康診断の血液検査の数値がどれも平均値におさまっていた。ヨーロッパでは予防医学の見地から、医師が自転車を推奨しているという。私も自信をもって、健康のために自転車をお勧めする。
ジョン・アダムズ:弦楽四重奏曲を聴きながら