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◆ 第280回  福田繁雄展で「観る」楽しみを味わう(24.SEP.2012)

 日本を代表するグラフィックデザイナー福田繁雄(1932年2月4日 - 2009年1月11日)の大回顧展が岩手県立美術館で開催されている(11月11日まで)。
福田繁雄は現在の二戸市に疎開し、福岡高校を卒業するまで過ごしている。第二の故郷と言っていいだろう。ありがたいことに、福田自身、岩手県や二戸市との結びつきをとても大切にしてくださった。
 福田といえば騙し絵だ。「日本のエッシャー」とも呼ばれる。けれども、エッシャーは平面だけだった。福田は立体でも「騙し絵」をやる。それに、エッシャーとの大きな違いは、エッシャーがあくまでも単に造形的な「騙し絵」なのに対して、福田のそれには社会へのシニカルな視点が加わる。
それらを観るとき、私たちは受け身の姿勢ではなく、一歩踏み込んでいくことを要求される。
 もちろん、美術作品というものはすべてそういう要素を持っている。だから、観る側の姿勢と教養に左右される。福田の作品の場合は、観る側に踏み込ませようと働きかけてくる。その結果、作品と観る側のあいだに知的なやりとり(交感)が自然に生まれる。
しかも、決して難しくない。環境問題を扱った作品を前にしても、微苦笑させられる。
そんな福田の作品を観ていて、ヒッチコックの「重いテーマこそ軽く描かなければならない」という言葉を思いだした。また、商業デザイン以外の領域では、マルセル・デュシャンに通じるものがあると思った。
 なんだか七面倒くさい文章になってしまったが、展覧会そのものは実に愉快で、「観る」ことの楽しみを存分に味わわせてくれる。
◆このごろの斎藤純
〇頸椎ヘルニアがまだ治らない。症状は軽いので日常生活に支障はないものの、なかなかつらい。
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