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◆第282回  三陸に想いを寄せるスケッチ展(22.OCT.2012)

 深沢紅子野の花美術館で「深沢省三の描いた三陸海岸スケッチ」展を開催中だ(12月12日まで)。
 この美術館は深沢紅子を顕彰しているが、夫の省三も岩手の人々に愛された画家だった。また、お二人とも岩手の美術教育の上でも功績が大きく、たくさんの後進を育てたことで知られている。
 今展では省三が三陸で描いたスケッチを観ることができるとあって、私は逸る気持ちを抑えて、出かけていった。深沢家は1979(昭和54)年に隣家から出火した火災で全焼し、アトリエにあった作品も焼失している。だから、それ以前の作品は人手に渡ったもの以外は残っていない。
 ところが、昨年、深沢家でスケッチが発見された。しかも、それは東日本大震災で大きな被害に遇った三陸で描いたものだった。「震災の悲しみから復興へと闘う岩手のために深沢省三さんが残してくれたプレゼント」と石田智子館長はおっしゃる。
 確かにそのとおりだ。
 自由闊達な筆によるスケッチは、往時の三陸の風景のみならず、漁村や海女のようすも捉えている。識者によると、いずれも時間をあまりかけず、15分くらいで描きあげたものらしい。その勢いが感じられ、観ていると心が踊る。
 ペンのほかに墨もよく用いていて、その筆の巧みさに時代を感じた。今の画家は筆をこれほど自在には扱えない。パステル(クレパスだろうか)も使われている。
 ところで、釜石あたりで描いたスケッチに「北岩手」と記してあることに違和感を持った。石田館長にうかがうと、当時、北東北というような意味合いで北岩手という語が使われていたらしい。
 深沢省三のこれまであまり知られていなかった作品が観られたうえに、それが三陸の絵だったから、喜びもひとしおだった。
◆このごろの斎藤純
〇もりおか映画祭が終わり、今度は盛岡文士劇の本番に向けて猛稽古が始まった。今年は芸達者が揃ったし、私は出番もセリフも少ないので気が楽だ。
武満徹:森のなかで −ギターのための3つの小品−を聴きながら