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◆ 第284回  勝海舟を描いた画家(19.NOV.2012)

明治期の洋画家といえば、黒田清輝が突出して有名だ。そのほかに名が挙がるとすれば、『鮭』でよく知られる高橋由一と、洋画家のグループである明治美術会を立ち上げた浅井忠(この会の賛助会員には原敬や森鴎外も名をつらねている)くらいだろうか。少なくとも、川村清雄の名はいくら待っても出てこないに違いない。
私は明治期の洋画が好きなので、山本芳翠、原田直次郎、浅井忠、五姓田芳柳、五姓田義松らの名前を見るだけでときめきを覚える。中でも川村清雄は私が一押しの画家だ。
川村清雄(1852-1934)は黒田清輝(1866- 1924)より早く生まれ、長く生きたのに、忘れられた画家となっていた。知られているとしても、「勝海舟を描いた画家」としてだろう。この場合、あくまでも勝海舟が主であり(確かに二人には深い交流があったが)、画家としての川村清雄の真の業績は言い表していない。
江戸東京博物館で開催中(12月2日まで)の『維新の洋画家 川村清雄』展は、私が待ちに待った大回顧展だ。素晴らしい展覧会だった。期待を遥かに上回る内容に全身が震えるような喜びに包まれた。
パリのオルセー美術館が所蔵し、初の里帰りとなる『建国』をはじめ100点もの作品が一堂に会したのだから、見応えのないわけがない。川村清雄の画業ばかりではなく、川村家代々にまで及ぶ資料100点にも驚かされた。美術館の展示とは一線を画す内容で、学芸員の力の入れようがひしひしと伝わってきた。
川村清雄は独特というよりも、どこか異様な絵を描く。異様な、というのは言葉が不適切かもしれないが、ほかにうまい言葉が見つからない。油絵という西洋の技術で、日本「和」の世界を表現し、それが成功した最初の画家だと思う。私は川村清雄の作品から映画『雨月物語』(溝口健二監督)をいつも連想する。西洋の油絵とは明らかに異質な、と言い換えてもいいのだが、それでは川村清雄が持つ「凄味」が伝わらない。
その「異様な凄味」を最も感じさせる『形見の直垂』は、残念ながら展示期間の関係で観ることができなかった(以前に国立博物館で観ているが)。
もちろん、「勝海舟を描いた画家」と呼ばれる所以となった『江戸城明渡の帰途(勝海舟江戸開城図)』も展示されている。江戸城明け渡しに奔走した勝海舟は旧幕府軍の軍人に何度か暗殺されそうになった。その緊迫した一瞬を描いた、まるで映画の1シーンのような作品だ。
また、昭和に入ってからの晩年の作品など日本美術史などの美術本にも載っていない作品を多数見ることができ、改めて川村清雄に惚れ直した(実は、川村清雄が昭和に入ってからも活躍していたことを私は本展を観るまで認識していなかったが)。
今年は高橋由一もたくさん観ることができたし、私にとっては「当たり年」だった。
◆このごろの斎藤純
〇私がギターで参加しているジプシースィング・バンド「ホットクラブオブ盛岡」のライヴが、12月16日(日)にあります。
ジプシースィングは、第二次世界大戦の前後にパリで生まれたジャズで、ジャンゴ・ラインハルトがその創始者です。超高速で弾く生ギターと、どこか日本人の琴線に触れる旋律が魅力です。場所は盛岡市菜園のジャズスポット「S」で、午後7時スタート。料金は1500円です。
今年は「いしがきミュージックフェス」や「定禅寺ストリートジャズフェス」にも出演しましたが、その活動の一年を締めくくりとなる演奏をお届けしようとメンバー一同張り切っている。ぜひお越しください。
ブラームス:ハンガリー舞曲集を聴きながら