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◆第286回  骸骨の画家とそのルーツ(17.DEC.2012)

岩手県立美術館で開催中の『アントワープ王立美術館所蔵 ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―』展がおもしろい。
ジェームズ・アンソール(1860-1949)の初期から晩年にかけての約50点の作品に加え、このユニークな画家に影響を与えたブリューゲルやルーベンスらオールドマスターとクールベ、ファンタン・ラトゥールら印象派周辺、そして同時代の画家たちも合わせて、およそ100点にのぼる作品を観ることができる。
ベルギーは、美術史の上でユニークな存在だと思う。現在はオランダ、フランスとなっている地域も含めたフランドル地方は、オールドマスターの時代を築いたものの、19世紀に印象派がフランスで誕生すると表舞台から遠ざかる。
しかし、その後、アンソール、ポール・デルヴォー(1897-1994)、ルネ・マグリット(1898-1967)らシュールレアリストの登場によって再び脚光を浴びる。この画家たちには、幻想的な作風が共通していることに加えて、オールドマスターの時代から連綿と受け継がれてきた古典的な技術を現代的なテーマと融合させている点でも重なる。
この展覧会を観れば、アンソールが何にどのような影響を受けたかが一目瞭然でわかる。わかるにはわかるのだが、それでもアンソールがなぜ骸骨の画家に変貌していったのか、それが私には最後まで謎として残った。
そして、それはベルギーという国の不思議でもある。首都のブリュッセルはEUの中心であり、120の国際機関、1000を越すNGOの拠点があるが、一般的には影の薄い国だ。これは日本だけのことではないようだ。アガサ・クリスティが生んだ名探偵ポアロはベルギー出身であるにもかかわらず、しばしばフランス人と間違われ、そのたびに憤慨する。アダモ(歌手)もフランス人と思っている人が多い。
話がそれてしまったが、こんなことを考えながら展覧会場をまわるのも私の楽しみのひとつだ。
実はアンソールだけの展覧会だと思っていたが、ほかの巨匠たちの作品もあって、儲けたような気がした。
◆このごろの斎藤純
〇盛岡文士劇が終わると、何となく今年の仕事納をしたような気になる。
スティーヴ・ライヒ:WTC9/11を聴きながら