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◆第139回 日本〜フランス〜ロシアを結ぶガラス工芸品(25.december.2006)

エミルタージュ美術館蔵 エミール・ガレとドーム兄弟
〜フランスからロシア皇帝への贈物〜
岩手県立美術館 2006年11月18日〜2007年1月28日



 まず、本展覧会についての案内をごらんください。

ロシアが世界に誇る美の殿堂、国立エルミタージュ美術館。ここには、19世紀末から20世紀初頭にかけて制作されたアール・ヌーヴォー様式のガラス工芸品が多数所蔵されています。これらは、パリの万国博覧会への出品物や、当時フランスとロシアの間に結ばれていた露仏同盟を背景とした、ロシア皇帝への進呈品でした。その中でも、1902年フランス大統領がサンクトペテルブルクを訪問した際にロシア皇帝ニコライ2世に捧げたエミール・ガレの大作《トケイソウ》は、コレクションの白眉となっています。

フランス東部ロレーヌ地方、ナンシーの地でガラス工房を経営していたガレは、日本美術の強い影響を受け、自然の生き物や草花を巧みに配した色鮮やかなガラス器を数多く制作し、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家として高く評価されています。

本展では、エルミタージュ美術館の所蔵する珠玉のガラス工芸コレクションの中から、《トケイソウ》を中心とするガレの作品の他に、ガレと並ぶナンシー派の巨匠であるドーム兄弟や、1920年代に至るまでの欧米の作家たちの作品をご紹介していきます。

これらの優れた作品は、諸外国ばかりか現地でも一般公開されていない秘蔵品で、そのほとんどが日本初公開となるものです。19世紀末から20世紀初頭にかけて花開いた、魅惑のガラス工芸の世界をお楽しみください。

 昨年、エルミタージュ美術館が所蔵する作品の中から女性の肖像画を集めた展覧会を岩手県立美術館では開催している。それは、かつてのエルミタージュの華やかさを余すところなく伝える好企画だった。
 一方、本展覧会は革命によってエルミタージュがロシア皇帝の宮殿としての役割を終える寸前のいわば「一瞬の輝き」を、「美しいが、こわれやすい」ガラス工芸品で象徴的に訴えかけてくる。

 そんなふうに感じたのは、20世紀初頭、革命前夜のサンクトペテルブルクを舞台にした小説を読んだばかりだったせいかもしれない(シャーロック・ホームズの息子が国際諜報活動を行なうというお話で、皇帝の一族もたびたび登場する)。

 それはともかく、ガレのガラス工芸品は本国フランスよりも日本で、より好まれているという。日本人がどんどん買い占めるため価格が異常に高騰し、フランスの人々が買えなり、顰蹙を買っているほどだ。確かに油絵と違い(油絵も一時期、日本人はずいぶん高く買って、顰蹙というよりも失笑を買ったものだが)、ガラス工芸品はもともと暮らしに密着しているから、日本人にとっては油絵よりも身近に違いない。
 しかも、ガレの作品に使われた絵柄は、日本の花鳥風月画を手本としているから、なおさらだ。
 もっとも、その質は我々の日常にあるそれとはまったく別の次元だが。

 山岳風景や森なども図柄として取り入れられているのは新しい発見だった。これは教会のステンドグラスが森林を象徴していることを思うと、ヨーロッパの伝統といえるのかもしれない。

 ロココ調の図柄のタピスリーも興味深かった。というのも、チャイコフスキーに「ロココ調の主題による変奏曲」という作品があるので、ロシア人はロココに憧れを持っていたのかもしれないなどと思ったしだい。

 本展覧会は1月末まで開催しているので、ぜひ足を運んでみてください。

◆このごろの斎藤純

○例によって、冬のあいだはジッと冬眠状態がつづく。これでは健康に悪いので、朝の散歩を心がけている。先シーズンは雪かきがいい運動になったが。

アイルランド民謡集を聴きながら