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目と耳のライディングバックナンバー

◆第294回  知られざる印象派コレクションを観る(22.Apr.2013)

 東京丸の内にある三菱一号美術館で開催中(5月26日まで)の『奇跡のクラーク・コレクション ルノワールとフランス絵画の傑作』展を観た。
 シンガーミシンで巨万の富を築いたクラーク家が収集した印象派を中心とする絵画が、マサチューセッツ州ウィリアムズタウンのクラーク美術館におさめられている。この美術館が増改築工事のため、貴重なコレクションの展覧会が実現した。ちなみに、新しい美術館の設計は安藤忠雄氏だ。
 私は印象派について少しは勉強してきたつもりだったが、クラーク・コレクションのことは今回の展覧会まで知らなかった。図録の解説によると、クラーク美術館はよそからの人がなかなか行きにくい場所にあるため、知られてこなかったらしい。
 アメリカはフランスよりも先に印象派を受け入れたため、多くの優れた作品が海を越えている。クラーク・コレクションが誇るのは30点を越えるルノワールだ。一般的に知られているルノワールとは違う作風の作品を目にすることができた(ルノワールってこんなに上手な画家だったのかと驚いた)。こういうところからも、コレクターの炯眼というかセンスが伝わってくる。
 そんなわけで、十代の私はナベサダさんのラジオ番組によってジャズを勉強した。そのナベサダさんが今なお最前線で元気に活躍されているのだから、ただただ頭が下がるばかりだ。
 ブグロー、ボルディーニ、ジェロームら19世紀フランス・アカデミズムの巨匠を私なりに再発見したことも私にとって大きな収穫だった。
 これらの画家を私はたぶんオルセー美術館やメトロポリタン美術館などでも目にしたことがあるに違いない。でも、そのころ(およそ20年から25年も前のことになる)はアカデミズム美術などまったく興味がなかった。頭のどこかで「印象派=善、アカデミズム=悪」と19世紀フランス美術界をとらえていたせいだ。「もったいないことをしたなあ、ものを知らないってことは罪悪だ」と悔やんでも始まらない。
 写真が普及する前の時代の写実的絵画といえば、まあそうなんだが、やはりそこには「画家の目」が明らかに存在し、決して客観描写というわけではない。スーパーリアリズムがもてはやされる昨今、日本でもフランス・アカデミズムに新たな光が向けられるのではないだろうか。
 それにしても、これだけ充実したコレクションが今まで脚光を浴びることがなかったのは奇跡というほかない。アメリカの底力を垣間見たような気がした。
〈このごろの斎藤純〉
〇上記を含む三つの展覧会をはしごした東京で風邪をもらってきた。これがしつこい風邪で、なかなか治らない。症状は軽く、熱も出ないのだが、鼻がつまって頭がすっきりしない。花粉症も重なり、春早々、さんざんな目にあった。
マイルズ・デイヴィス/コンプリート・アムステルダム・コンサート 1960を聴きながら

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