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目と耳のライディングバックナンバー

◆第305回 ホセ・マリア・シシリア 福島・冬の花(7.Oct.2013)

 スペインの美術家ホセ・マリア・シシリアさんの展覧会『ホセ・マリア・シシリア 福島・冬の花』展が福島県立美術館で開催されている。一般公開前日のレセプションに招かれて、行ってきた。
 まず、福島県立美術館のホームページから、この展覧会の概要を転載させていただく。
 スペインの現代アートシーンでひときわ異彩を放つアーティスト、ホセ・マリア・シシリア(1954 年マドリード生まれ)。数年前から彼の芸術的探求は、自分の関心の対象物が発する「言葉」の解読に向けられています。福島についての芸術プロジェクトは、瞬間、アクシデント、はかなさ、記憶、忘却について展開されます。
 「ホセ・マリア・シシリア 福島・冬の花」展は、2011 年3 月に東北地方沿岸を襲い、原発事故を引き起こした津波の様々な音を元に作り出された作品で構成されます。シシリアは、津波発生時に大洋で記録された音声データ、避難放送のメッセージ、鳥の音声などを解析し、和紙にインクで描かれた大判絵画、赤いグラスファイバー製の吊り下げ式波型オブジェ、トタン素材を使用したインスタレーション、福島第一原発の原子炉1号機の温度・圧力・放射線量データを視覚化した純金製、または樹脂製の小さな作品など、様々な表現形態、技法、外観の作品を生み出しました。さらに本展覧会には、東北地方の被災地の学校でシシリアが児童を対象に開催したワークショップの作品もあわせて展示されます。
 レセプションにはラホイ首相も列席され、スペインが東日本大震災を忘れないことをアピールした。今年は伊達政宗が慶長遣欧使節をスペイン国王フェリペ3世に派遣してから400周年にあたり、「日本スペイン交流400周年」としてさまざまな交流が行われていて、同展もそのひとつ。
 そのような公式な場に私が招待されたのは、シシリアさんが昨年、岩手県でワークショップを行なった際に、若干お手伝いをしたというご縁があったからだ。実は同展の開幕直前にも、ある素材を調達してほしいと頼まれて奔走した経緯がある。
 この日、久しぶりにお目にかかったシシリアさんから、大きなプロジェクトを持ちかけられた。実現できるかどうか今のところ未定だが、いずれ決まったらご報告したい。
 前置きが長くなってしまった。
 シシリアさんの創作活動は平面、立体、インスタレーションと多岐に及ぶ。同展で展示されている作品は東日本大震災と向き合って、できたものだ。そのいずれもが、科学を媒介にしているところがシシリアさんらしいところだ(ホームページから転載した上記の概要をもう一度ご覧いただきたい)。
 東日本大震災後、芸術家の多くは自分の無力さを感じた。やがて、芸術による心の復興、励ましなどの支援活動が展開されていった。破壊された街はゼネコンが建て直し、怪我人は病院が治し、そして心の傷は芸術が癒す--これが実践された。
 しかし、シシリアさんの創作活動は「芸術による癒し」とは、ちょっと異なる。感情を排して、即物的に把握しようとする姿勢が見られる。
 たとえば、津波の音声を解析し、図形化した作品がある。それは美しい抽象画だ。美しいということに抵抗を覚えるが、実際、そうなのだ。
 あるいはまた、福島第一原発の放射線量データを3D化した立体作品がある。これは可憐であり、おどろおどろしさは微塵もない。 つまり、基になっている事柄と作品にギャップがある。そのギャップを私はまだ消化しきれていない。
〈このごろの斎藤純〉
○いよいよ盛岡文士劇の稽古が始まった。私が出演するのは時代物の『赤ひげ』で、津川医師と遊女の二役だ。セリフが多くて、台本を開いたとたんに青ざめてしまった。
ジ・エッセンシャル・ディオンヌ・ワーウィックを聴きながら

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