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目と耳のライディングバックナンバー

◆第334回 盛岡文士劇20周年記念公演を終えて (15.Dec.2014)

 今年も盛岡文士劇に出演させていただき、『新・岩窟王』の舞台を無事につとめ終えることができた。今年は20周年を記念して、12月6日(土)と7日(日)、それぞれ昼夜2回・全4公演がおこなわれた。アレクサンドル・デュマ原作の『モンテ・クリスト伯』全7巻(岩波文庫)の超大作を、脚本家の道又力さんが1時間20分の舞台にまとめあげ、陰謀と恋が濃密に凝縮されている。
 ただ、脚本の段階ではやや生真面目すぎ、平板になってしまいそうな印象があった。これが、劇団わらび座の安達和平さんの演出によって、みごとに生まれ変わった。演出の力というものを、今回ほど認識させられたことはない。なにしろ稽古を重ねていくごとに芝居がどんどん変化していくのだ。
 もちろん、出演者(我々のこと)は素人だから、演出家の要求には応えきれない。そこを安達さんは丁寧に、辛抱強く、指導していく。その姿に感銘を受けつつ、私などは自分の不甲斐なさを思い知るわけである。
 ここで付け加えておくと、盛岡文士劇はかなり稽古を積む。多い人で20数回は稽古に参加している。それだけ真剣にやっているということだ。
 一般に文士劇といえば「出演することに意味がある」から、「セリフを忘れたり、とちったりしても別にかまわない」と思われがちだ。ま、要するにドタバタ劇をイメージしていると思う。
 ところが、盛岡文士劇は違う。全然、違う。稽古日も多いし、その内容も高度だ。初めて出演される方はそのことにまず驚かれる。そして、それが「やる気」を起こさせる。
 盛岡文士劇を20年も続けてこられたのは、観客に支えられてきたおかげだ。言うまでもなく、観客がいなければ文士劇は成立しない。盛岡文士劇のチケットは発売と同時に売り切れてしまう。それほど人気がある。その人気の秘密は、出演者が真剣に取り組んできたからだと言ってもいい。そうでなければ、とっくに観客に飽きられ、見捨てられていただろう。
 しかも、出演者はボランティアだ。出演料はもらっていないし、チケットを特別に融通してもらえるわけでもない。むしろ、持ち出しが多い。
 それでも、キャストに選ばれると、みんな嬉々として参加する。そして、忙しい中、厳しい稽古に足を運ぶ。
 こうしてできあがっていく盛岡文士劇は、文士劇の新しい歴史をつくったと言ってもいい。
 もうひとつ、スタッフの力についても明記しておきたい。盛岡文士劇は出演者の3倍以上という多くのスタッフに支えられている。しかも、キャストと同様、ボランティアで参加しているスタッフが多い。
 スタッフには盛岡で活動しているアマチュア劇団の劇団員らが入っている。彼らは稽古に出られないキャストの代役をつとめ、本番では我々を楽屋から舞台へ、舞台から楽屋へと誘導する。彼らがいなければ、盛岡文士劇は存在しない。それほど重要な役割を担っている。
 今回、4公演すべての終演後に開催された打ち上げ会場に、初めてスタッフ全員も顔をそろえた。スタッフは撤収や片づけがあるため、打ち上げには参加できなかったのだが、今回は打ち上げに少しの時間参加した後に、それぞれの仕事に戻っていった。文士劇事務局の粋な計らいだった。
 20周年の節目を迎え、これからまた新たな盛岡文士劇の歴史を切り開いていくことになるだろう。
 なお、IBC岩手放送でお正月に放送される。こちらもご覧いただければと思う。
〇1月2日(金)正午~午後1時24分
現代物『シングル・シングル・シングル』~映画『秋日和』より
〇1月3日(土)正午から午後1時24分
時代物『新・岩窟王』~A・デュマ原作『モンテ・クリスト伯』より
〈このごろの斎藤純〉
〇盛岡文士劇が終わり、解放感に浸っている。今回はいつもより1公演多かったため、心身ともに疲れた。
ヴィヴァルディ:「四季」を聴きながら

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