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目と耳のライディングバックナンバー

◆第345回 明治工芸の精華 (8.Jun.2015)

 この連載では何かの折に触れて、今日我々が親しんでいる芸術文化の多くが明治期に欧米から入ってきたものだと紹介してきた。たとえば、油絵がそうだし、音楽もそうだ。
 一方で、盛んに輸出されたものもあった。その代表的なものに日本の伝統的な技術を活かした工芸品がある。郡山市立美術館で開催中(6月14日まで)の『超絶技巧! 明治工芸の粋』展で知られざる逸品の数々を観てきた。
 展示されていたのは並河靖之らの七宝、正阿弥勝義らの金工、柴田是真、白山松哉らの漆工、旭玉山、安藤緑山らの牙彫(象牙の彫刻のことで、ゲチョウと読む)をはじめ、これまで紹介されたことのない刺繍絵画など、清水三年坂美術館(京都)の所蔵品から選りすぐりの約160点。
 まず、いずれもその精緻な細工に驚かされる。よく「日本人は手先が器用だ」といわれるが、それはこの時期にこれらの工芸品によって生まれた評価なのだろう。
 明治期に工芸品が奇跡的といっていいほどに発展したのは、それらを重要な輸出品として国が奨励したことにある。さらに、明治になって武士階級がなくなったため、武具や刀などの製作に携わっていた職人が工芸品に活路を見出したという時代背景がある。
 もうひとつ驚いたのは、これらの工芸品を日本人である我々がめったに見られないという点だ。なぜなら、ほとんどが輸出されたため(それだけ人気が高かった)、日本に残っていないせいだ。パリやロンドンでは万博が開催され、それまで鎖国のために謎(あるいは神秘)の国だった日本からの展示品は圧倒的な人気を集めた。その展示品の中心が工芸品であり、それらの需要が高まった。したがって、展示品の中には、近年に買い戻されたものも含まれているという。
 気をつけなければならないのは、もはや廃れてしまった技術が少なくないことだ。たとえば、リアルな果物や野菜の牙彫で知られる安藤緑山は弟子を取らなかったし、作り方を誰にも教えなかったから、その恐るべき技術が一代で途絶えている。そんなこともあって、私などは「かつての日本人は手先が器用だった」と過去形で捉えてしまう。
 欧米でジャポニズム・ブームを巻き起こした明治工芸は、しかし、短命に終わっている。職人の手仕事で時間をかけてつくる手工品よりも、同じもの(実際は似て非なるもの)を早く、安く、大量に生産できる工業製品に市場を奪われていったからだ。明治工芸の数々の逸品は、驚嘆のうちに、そういった時代の変遷に対する哀切をも呼び起こす。
 郡山市立美術館は明治美術の優れたコレクションがあり、これも合わせて見るとなお感慨深い。
〈このごろの斎藤純〉
○今年もハリエンジュ(ニセアカシア)が盛大に花をつけた。私はこの花の香りと、この花から採れる蜂蜜が好きなのだが、日本生態学会は本種を日本の侵略的外来種ワースト100に指定しているという。北上川や雫石川の河原でたくさんのハリエンジュが伐採されたのは、そのせいだろうか。
○あまりに早く夏が到来したせいか、季節の変化に体がついていけない。
スモール・サークル・オブ・フレンズを聴きながら