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目と耳のライディングバックナンバー

◆第351回 爽やかな古楽の響き (7.Sep.2015)

 岩手ではあまり聴く機会がないが、クラシックの世界では「古楽」が大きな潮流となっている。古楽を簡潔に説明するなら、作曲された当時の響きを再現しようというものだ。
 クラシックとはいえ、その演奏は時代とともに変化している。たとえば、20世紀初頭の巨匠フルトヴェングラーの指揮によるバッハは、ベルリンフィルの演奏とあいまって、とても重厚な響きを持っている。
 ところが、フルトヴェングラーは必ずしもバッハが書いた楽譜に忠実に演奏していたわけではない。楽器の編成もバッハの指示通りではないし、場合によって楽譜の省略ということもやっている。それはフルトヴェングラーの解釈によるバッハ演奏だったと言っていい。
 そういう流れに対して、バッハの楽譜に忠実であることはもちろん、バッハが生きていた当時の演奏とその響きを再現しようというのが古楽だ。
 では、現代のクラシック(以後、モダンと記す)と古楽では何がどう違うのか。
 まず、ピッチ(音高)が異なる。ちょっと専門的な話になるが、現在、クラシックの世界ではラが442ヘルツで統一されている(ジャズやポピュラーミュージックの世界では440ヘルツ)。古楽ではバッハが生きていた当時の音律で演奏するから、ラを415ヘルツに合わせる。現在のラよりも半音ほど低い音だ。これをバロックピッチという。
 バロックピッチのほうが人間の耳にフィットしているという説もある。古楽が聴くものにある種の安らぎのようなものを与えるのは、そういう理由からかもしれない。
使っている楽器も、よく見るとモダンとはちょっと違う。たとえば、バッハが活躍していた300年前のホルンとトランペットには、現在のそれとは違って、バルブが付いていなかった(アンブシュア(唇の形)と吹き込む息の強弱で音程をつくっていた)。また、フルートは現在とは材質が異なり、木が使われていた(金属製が主流となった今でも木管楽器と呼ばれているのはその名残)。
 ヴァイオリンもちょっと見ただけでは現在のそれと変わりがないが、子細にチェックするとバッハの時代のそれには顎充てが付いていないし、指板の角度も違う。弓の形も異なり、現在とは逆に反ってる。
 これらは楽器そのものは残っていなくても、バロック時代の絵画に描かれているから、それらを研究することで当時の楽器が再現できる。
見ただけではわからない違いとして、今はナイロンや金属の弦を使っているが、昔(第二次大戦前まで)はガッド弦(羊の腸)だった。楽器の形と使用する弦の違いは、楽器の響きの違いとなってあらわれる。もちろん、演奏の仕方も異なってくる。
古楽はこれらの研究の上に成り立っている。きわめてアカデミックな音楽なわけだが、もちろん我々はそんなことは知らなくてもいっこうにかまわない。古楽が再現するバッハやヴィヴァルディの「新しい響き」を楽しめばいい。
 古楽の特長として、まずテンポの違いに気がつく。一般的にほとんどの曲がモダンの演奏よりも速い。そのスピード感がたまらない。
 速いテンポとあいまって、あっさりした感じも受ける。これは楽器の特性とそれによる演奏様式(たとえば、古楽ではヴィヴラートをかけない)の違いによるものだ。
 ちなみに、このごろはモダンのオーケストラも古楽の奏法を部分的に取り入れることが珍しくない。
 昨夏、新しい古楽オーケストラ〈ラ・ムジカ・コッラーナ〉が誕生した。おそらく平均年齢が20代半ばという若いメンバーからなる楽団だ。
 嬉しいことにラ・ムジカ・コッラーナには東京芸術大学音楽部器楽科を卒業後、同大学院古楽科修士課程でバロックヴァイオリンを学んでいる吉田爽子さん(盛岡市出身)が入っている。そのおかげで、このコンサートを盛岡でも開くことができた(盛岡市民文化ホール小ホールにて8月28日午後6時30分開演)。
 プログラムは下記のとおり。
[1]ヴィヴァルディ:弦楽協奏曲 ト長調 《田園風》RV151
[2]ヴィヴァルディ:協奏曲集《調和の霊感》より 第11番 合奏協奏曲 ニ短調 RV565
[3]ヴィヴァルディ:協奏曲集《調和の霊感》より 第6番 ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV356
[4]ドゥランテ:弦楽協奏曲 第2番 ト短調
[5]ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲 ト短調 RV413
[6]ヴィヴァルディ: 協奏曲集《調和の霊感》より 第4番 4つのヴァイオリンのための協奏曲 ホ短調 RV550
[7]コレルリ: 合奏協奏曲 第4番 ニ長調 Op.6-4
[アンコール]
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集《ラ・ストラヴァガンツァ》Op.4より第4番 イ短調 RV357 第3楽章
ヴィヴァルディ:弦楽協奏曲「田園風」ト長調 RV151 第3楽章
 コッラーナはイタリア語で「首飾り」という意味。メンバーの志がひとつの輪となって、華やかなバロック音楽を奏でるという思いが込められているという。
 この言葉通りのコンサートだった。古楽という古い音楽に、若い音楽家が、新しい響きを与えている。実に自由で、そしてどこか奔放な古楽演奏を聴かせてくれた。古楽には演奏上のたくさんの制約があると先入観が抱かれがちだ。ラ・ムジカ・コッラーナの演奏を聴くと、それが間違いであることがわかる。
 ヴィヴァルディをメインとするプログラムもよかった。このメンバーがイタリア・バロックとは対象的なバッハをどのように演奏するか、これもいつか聴いてみたいと思った。
【ラ・ムジカ・コッラーラ】
丸山 韶 指揮、ヴァイオリン
天野寿彦 ヴァイオリン
吉田爽子 ヴァイオリン
高岸卓人 ヴァイオリン
佐々木梨花 ヴィオラ
佐藤駿太 ヴィオラ
島根朋史 チェロ
森田叡智 チェロ
平塚拓未 コントラバス
上田朝子 テオルボ、ギター
石川友香理 チェンバロ
〈このごろの斎藤純〉
○ザ・ジャドウズがいよいよデビューします。私が初めてバンマスをつとめるエレキ・バンドと、二人のゲストヴォーカルがお送りする「昭和歌謡の夜」をご堪能ください。
タウンホールでみなさまとお会いできることを心待ちにしています!

ザ・ジャドウズ=斎藤純/ギター、吉田リッチー亘/ギター、田村あけちゃん明光/ベース、澤井まんぞう泰董/ドラムス
ゲスト・ヴォーカル=佐々木和夫、石倉かよこ
演奏曲目は「十番街の殺人」、「虹色の湖」、「あの時君は若かった」ほか。

〈とき〉9月16日(水)午後7時円開演
〈ところ〉盛岡劇場タウンホール
〈前売り〉1000円(当日1200円)
マイルズ・デイヴィス:ライヴ・アラウンド・ザ・ワールドを聴きながら