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目と耳のライディングバックナンバー

◆第367回 近代洋画の巨匠たち(16.May.2016)


 日本で油絵が本格的に描かれるようになったのは明治時代のことだ。当時、私たちの祖先は産業、教育、行政、軍備などあらゆる分野にわたって欧米のそれらを猛烈な勢いで吸収していった。文化・芸術面でも「遅れている」と思い込んで(決して遅れていたわけではなく、質が異なっていたにすぎなかったのだが)西洋文化も闇雲に導入した。後に「猿真似」などと揶揄されたりもしたが、しばらくすると日本の伝統(あるいは日本人の感性と言ってもいいだろう)との融合が真剣に模索されるようになる。  簡単に言うなら、当初はフランスの官展で認められる絵を描くことを目指したが、やがて「日本人による日本人のための油絵を描く」と方向転換していった。表現者として当然の進み方といえる。
 岩手町立石神の丘美術館で開催中の『近代洋画展』は、西洋美術の導入と模倣が一段落し、日本独自の美術を築いていこうという機運が高まった大正から昭和初期にかけて描かれた40名(青山義雄、麻生三郎、有島生馬、石井柏亭、伊藤廉、井上長三郎、猪熊弦一郎、梅原龍三郎、刑部人、金山平三、川島理一郎、熊谷守一、小磯良平、小絲源太郎、児島善三郎、小林和作、斎藤与里、里見勝蔵、清水登之、鈴木保徳、須田国太郎、曽宮一念、高畠達四郎、鳥海青児、東郷青児、中川一政、中川紀元、中沢弘光、中山巍、野口弥太郎、林武、福沢一郎、藤島武二、牧野虎雄、松田文雄、満谷国四郎、森芳雄、安井曾太郎、山口薫、和田英作)の秀作55点が一堂に会していて壮観である。
 中でも、梅原龍三郎の『紫禁城の黄昏』、安井曾太郎の『女と犬』は代表作のひとつに数えられる作品だ。
 実はここに萬鉄五郎の作品があれば完璧だ。上記の40名の中にはフュウザン会、二科会、春陽会などの活動を通して萬と密接な関係にあった画家が少なくない。それは、萬が美術界の中心的な存在だったことを示している。
 幸いなことに岩手県には岩手県立美術館(常設展)と萬鉄五郎記念美術館がある。ぜひこの機会に訪れていただきたい。
 これらは公益社団法人糖業協会のコレクションだ。美術館だけでなく、企業など民間にも優れたコレクションがある。有名なところではブリヂストン(休館中のブリヂストン美術館)、ポーラ化粧品(箱根のポーラ美術館)、ゼビオ(裏磐梯の諸橋美術館)などがある。
 糖業協会コレクションには一貫した趣味(好み)が感じられる。前衛的な作品と裸体画はなく、風景画、人物画、花などの静物画が主だ。たとえば、福沢一郎はシュールレアリスム画家として知られているのに、糖業協会は『花とてんとう虫』という静物画をコレクションしている。そのセンスがいい。
 余談だが、糖業協会の前身は台湾糖業連合会だから、岩手と縁がある。台湾に近代製糖技術をもたらしたのは、盛岡出身の新渡戸稲造だからだ。新渡戸は「台湾砂糖の父」と呼ばれ、今も尊敬されている。
 さらに付け加えると、糖業協会のコレクションを管理していた円鳥洞画廊(この画廊名は、萬鉄五郎が中心となって結成した円鳥会に由来する)のM社長は、昭和30年代に十代のころを盛岡で過ごしている。この企画展が実現したのも、そういう縁があったおかげだ。本展のためにM社長は尽力してくださったが、残念ながら昨年暮れに逝去された。この場をお借りして感謝と哀悼の意を表させていただく。
 美術は絵などの作品が主役であるのはもちろんだが、このように人間の物語を背後に秘めている。
 『近代洋画展』は岩手町立石神の丘美術館で6月5日まで開催しています。期間中、【道の駅レシート割引】を実施しています。道の駅石神の丘(産直、レストラン)の500円以上のレシート(当日のみ有効。合算可、500円ごと1名)を美術館受付に提示すると、『近代洋画展』の観覧料金が2割引になります(一般500円→400円、大学生・高校生300円→240円)。
 ぜひ、道の駅と美術館の両方をお楽しみください!
〈このごろの斎藤純〉
○私が呼びかけて結成したエレキバンド「ザ・ジャドウズ」のライヴがあります。お誘い合わせのうえ、お越しください。
《ザ・ジャドウズ待望のライヴ開催》
『The Jadows エレキだ! リズムだ! Go! Go! Go!』
【とき】2016年5月21日(土)19時スタート
【お代】 ¥2,000(1ドリンク付)
【ところ】 アルディラ(菜園1丁目11番地23号 SAIENビル2F)
ザ・ベンチャーズの「パイプライン」や「十番街の殺人」、ザ・サウンズの「ふたつのギター」や「エマの面影」など懐かしのエレキサウンドと、「虹色の湖」や「雨の御堂筋」など昭和リズム歌謡(ゲスト歌手=石倉かよこ)をお楽しみください。
ザ・ジャドウズ=サボール斎藤(G)、リッチー吉田(G)、田村あけちゃん(B)、澤井まんぞう(Ds)
特別出演=齋藤悦郎(Sax)
アメリカン・グラフィティ(サントラ)を聴きながら