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目と耳のライディングバックナンバー

◆第376回 いわてジャズを聴く(20.Sep.2016)

 2010年に第1回が開催され、今年で7回目となる「いわてジャズ」が9月10日(土)と11日(日)の二日間にわたって実施された。私は10日の「いわてジャズ」に参加した(音楽フェスの場合、出演ミュージシャンでなくても「参加」という)。
 10日の出演者は下記の通り。
1.“いわてJAZZ”スペシャル・バンド
2.ポール・グラボウスキー・カルテット:ボール・グラボウスキー(pf)、ロバート・バーク(sax)、ジョナサン・ザイオン(b)、ルーク・アンドレセン(ds)
3.ケニー・バロン・トリオ:ケニー・バロン(pf)、北川潔(b)、ジョナサン・ブレーク(ds)
4.セルジオ・メンデス:セルジオ・メンデス(vo, key)、グラシーナ・レポラス(vo)、ケイティー・ハンプトン(vo)、エイチツーオー(rapper)、スコット・マヨ(key, horn)、クレベール・ホルヘ(g)、アンドレ・デ・サンタナ(b)、ギビ(perc)、レオナード・コスタ(dr)
 1は県内のビッグバンドの選抜メンバーからなるビッグバンドで、オープニングにふさわしい華やかな演奏だった。岩手のジャズ界を牽引してきた重鎮らがまだまだ「やる気充分」なのに加えて、若手が育っていることも嬉しかった。ひところ若い人たちのジャズ離れが心配されたが、近年、盛り返してきているのを感じる。
 昨年はトリオだった2のポール・グラボウスキーは、アルトサックスを加えたカルテットで登場。既成のジャズとは一線を画す音楽は相変わらずで、このアヴァンギャルドなジャズを岩手県民会館大ホールを埋めつくした聴衆は大きな拍手で歓迎するのだから、ただごとではない。こういうことが口伝てに「岩手は耳が肥えているから怖い」と広まっていくのだろう。その結果、気合の入った演奏をしてくれるから、ますますジャズ・ファンが増える……という相乗効果を生む。
 3は、ポール・グラボウスキーと好対照をなすオーソドックスなメインストリーム・ジャズを堪能させてくれた。ニューヨーク在住の北川潔のベースプレイを初めて聴いたが、とてもよかった。ちなみに、翌11日はこのトリオに渡辺貞夫が加わって、この世のものとは思えないような熱演を繰り広げたそうだ。ジャズ喫茶一関ベイシーの菅原正二マスターは感激のあまり「涙が出てきた」とおっしゃっていた。私は仕事の都合で行けなかったのだが、悔やまれてならない。
 この日のトリをつとめた4は、いわば生きた伝説のような存在だ。ボサノヴァを初めとするブラジリアン・ポップスを世界に広めたセルジオ・メンデスの功績は極めて大きい。しばしばボサノヴァは、ジャズの影響を受けた音楽と紹介される。ところが、実際はジャズがボサノヴァから受けた影響のほうが遥かに多い。これは明記しておきたい。
 この日は自身の歴史を振り返るかのようなセットリスト(演奏曲目)で、60年代のヒット曲を中心に次から次へとたたみかけるように演奏していった。会場からは熱く盛大な拍手が送られた。若手の名手たちからなるバンドも当時を再現するような奇をてらわない演奏で私には懐かしく、何だかありがたかった。
 私はセルジオ・メンデスのコンサートを過去に3度経験している。最初に聴いたのは1975年の岩手県民会館大ホールのコンサートだった。この日、41年ぶりに同じ場所で聴いた方が私のほかにもきっといらっしゃったに違いない。私にとってセルジオ・メンデスはブラジル音楽という広大な沃野へ誘ってくれた先導者のような存在だ。10代になったばかりのころからセルジオ・メンデスの音楽に親しんでいたから、後にジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンらのボサノヴァはもちろんのこと、ミルトン・ナシメントやジャヴァンらにも引き寄せられることになった。いくら感謝しても感謝しきれない。
 もしかするとセルジオ・メンデスが日本に来てくれるのは、今回が最後になるかもしれない。そういう意味でも今年の「いわてジャズ」は私にとって特別なものになった。
〈このごろの斎藤純〉
○恒例の盛岡文士劇が今年も始動した。演目は『みちのく平泉 秀衡と義経』で、私は弁慶役だ。年々、セリフと殺陣の覚えが悪くなる一方だから、迷惑をかけるのではないかと心配だ。
ルトスワフスキ:弦楽四重奏曲を聴きながら