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目と耳のライディングバックナンバー

◆第380回 大人も楽しめる絵本原画(28.Nov.2016)

 本との付き合いに関しては、かなり雑食だと思っている(別の言い方をするなら、いろいろなジャンルにわたって領域が広い)。だが、子どもがいないせいもあって絵本にはあまり縁がない。一般的に絵本は、ほかの本よりもよく親しまれているだろうから、そういう意味では、私は世間とズレているのを認めないわけにはいかない。
 岩手県立美術館で開催中(12月11日まで)の『BIB50周年 ブラティスラヴァ世界絵本原画展 ―絵本の50年 これまでとこれから―』展も私の守備範囲ではなく、興味がなかった。
 そんな私が足を運んだのは、ポスターに使われている絵がどうしても気になったからだった。
 展覧会に行って、私は久々に興奮した。これまで絵本に対して抱いていた印象は大間違いであり、己の不明を思い知らされもした。大いに反省しつつ、絵本原画を私は楽しんだ。
 この展覧会名はちょっとわかりにくい。簡単に言うと、スロヴァキアのブラティスラヴァで2年毎に開催される絵本原画コンクールの日本巡回展なのである。
 まず、ブラティスラヴァという地名の知名度が低い(親父ギャグに非ず)。主催者は「世界的に有名な絵本原画コンクール」だから、この展覧会名を採用したのだろうが、私のまわりでは、ブラティスラヴァという絵本作家の原画展だと思っていた方も少なくなかった。このコンクールが絵本の世界ではいくら有名でも、一般的によく知られているとは限らない。もう少しわかりやすい展覧会名を考えてよかったのではないだろうか。
 こんな苦言を呈したのも、展覧会の内容がとても素晴らしかったからだ。冒頭に記したように、私はかなり興奮して展覧会場を巡った。絵を見て、こんなにワクワクしたのも久しぶりだ。端的に言うなら、「絵本=子ども向け」という先入観がみごとに覆された。大人が見ても楽しいし、絵本というジャンルを超えて、一枚の絵(芸術作品)として成立している作品もたくさんあった。
 そういえば、児童文学作家の柏葉幸子さんは「大人が納得しないものは、子どもも納得しない」とおっしゃっている。児童文学も書かれた作家の故須知徳平さんからは「児童文学は子ども騙しが津用しない世界」とうかがったことがある。つまり、文学に限らず、絵にも同じことが言えるのだ。
 絵本原画は印刷して出版することを前提に描かれている。だから、「下描き」のように見える作品もある。その一方、これが絵本のための絵なのだろうか」と思わせる作品もある。特に後者の作品から受ける衝撃が大きかった。私には「ほしい」と思う絵があるかどうかで展覧会の善し悪しを決めるという悪癖がある(セザンヌが好きなのは、ほしいと思わせる絵をいっぱい残してくれたからだ)。
 たいていの場合、「この絵がほしい」と思っても不可能だ(買うことができる大金持ちもいるにはいるのでしょうけれど)。ところが、この展覧会は絵本原画展だから、絵本を買えばその作品を手許に置いておくことができる。実際、私は洋書を含めて3冊ばかり購入してしまった。さらに増えていくに違いない。
 会場には原画とともに実物の絵本も置かれていて、自由に閲覧できた。これは主催者側としては手間がかかるに違いないが、来場者にとっては嬉しい配慮だ。子連れの親御さんも、子どもより熱心に見入っていた。ちなみに、私が気になった絵の作者はブラティスラヴァ世界絵本原画展2015でグランプリを受賞したローラ・カーランだった。
 というわけで、私は本展を契機に絵本に目覚めてしまった。この年齢になって「発見の場」に出会えたことは嬉しい。本展を開催してくれた岩手県立美術館に感謝したいと思う。
〈このごろの斎藤純〉
〇盛岡文士劇の稽古が佳境を迎えている。私は『みちのく平泉 秀衡と義経』に弁慶役で出演する。セリフ覚えが悪いのに加えて、かなりハードな殺陣もあり、苦労をしている。ただ、岩手めんこいテレビの米澤かおりアナウンサーが演じる義経が迫力満々で、役の上ながら「一命を賭けても義経様をお守りせねば」と思わせるほどだ。残念ながら(いつものことだが)、すでに前売り券は完売しているのでお正月のテレビ中継を楽しみにしていただきたい。
ボブ・ディラン:ローリングサンダー・レヴューを聴きながら