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目と耳のライディングバックナンバー

◆第399回 ジャコメッティと向き合う(11.Sep.2017)

 国立西洋美術館の『ジャコメッティ展』(6月14日~9月4日)は、美術展が人寄せのためにイベント化している中にあって、地味と言ってもいいほど実にまっとうな展覧会だった。
 初めてジャコメッティの作品を見たのは今から30年ほど前だ。エフエム岩手の東京支社に勤務していた私は、ときどき昼休みに都内の美術館巡りをしていた。美術館巡りをした日は昼食抜きである。時間の問題もあったが、千数百円の入館料を払うと昼食代がなくなった。だから、とてもお腹が減っているときには美術館巡りを諦めなければならなかった。そうやって年間10本から20本くらいの展覧会(常設展を含む)を見ていたころに、ブリジストン美術館でジャコメッティのブロンズ像に出会った。
 ジャコメッティの作品をひとことで言うなら、骨と皮と筋の人体だ。つまり、とても細い。ガリガリに痩せている人でもこんなに細くはない。粗削りで奇妙な造形ながら、しっかりとした存在感がある。顔もザクッとつくられていて、表情はない。そんなジャコメッティの作品から、私はズシンとくる何かを感じた。
「そんな生き方でいいのですか?」
 ジャコメッティの作品がそう問いかけているように私は受け取った。
 以来、国内外の美術館でジャコメッティとの出会いを重ねてきた。そのたびに私は独り苦笑を浮かべ、意味もなく頭をポリポリ掻いたりしてゆっくりと背を向けるのだった。ジャコメッティを見ることは私自身の心を見ることでもあった。
 本展ではジャコメッティの初期の作品から、未完に終わったチェース・マンハッタン銀行のプロジェクトまで充実した作品群に接することができた。油彩を見たのは初めてで、とても感銘を受けた。学芸員の熱意がよく伝わってくる内容だったが、一方でこんなこともあった。
 小学4年生くらいの少年が、あるブロンズ像の後ろ側を見ようとまわりこんだとき、ガードマンが飛んできて「離れてください」と注意をした。壁際に展示してあったため、作品の背面を見るには台座の上の空間に体をはみださせなければならなかったのだ。
 それを見ていた来館者の一人が「君が悪いんじゃないよ。展示の仕方が悪い。彫刻は背面も見られるように展示してくれなければ…」と少年の行動をフォローするように言った。私も同感だった。展示数が多いため、どうしても壁際に展示しなければならなかったのだろう。しかし、背面を見られないような展示の仕方は困る(ジャコメッティが正面性を重視しているとしてもである)。
 これだけまとまった数の作品を見たのは初めてのことだ。やはり、ジャコメッティは「君の生き方はそれでよかったの?」と問いかけてきた。
 私は心の中で「こんな生き方しかできなかったよ」と応じた。
 無表情なはずのジャコメッティの像が苦笑いとも微笑ともつかぬ笑みを浮かべているように見えた。
〈このごろの斎藤純〉
〇夏が終わった。振り返ってみると、去年の夏ほどではなかったが、今夏も多忙だった。 盛岡さんさ踊りパレードに参加、ザ・ジャドウズの夏のツアー(岩手県広告業協会納涼パーティ、去年に続いてビッグイベントである全日本エレキ音楽祭に出演)、ツーリング専門誌アウトライダーの箱根取材ツーリングと、体力の衰えを実感している中、自分でもよく乗り切れたと思う。
〇春のスギ花粉症は舌下免疫療法が功を奏して軽減されたが、秋の花粉症(ぶた草?)がつらい。
グレツキ:すでに日は暮れてを聴きながら