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目と耳のライディングバックナンバー

◆第400回 いわてジャズ2017を聴く(25.Sep.2017)

 岩手県民会館大ホール恒例「いわてジャズ」に今年も行ってきた(9月10日午後4時開演)。セルジオ・メンデスに感激したのがつい昨日のことのように思えるが、あれから早くも1年経ったわけだ。光陰矢の如しを実感させられる。
 それはともかく、ざっと今年の「いわてジャズ」をふりかえってみよう。
〈“いわてJAZZ”スペシャル・バンド〉
 恒例になっている。県内のビッグバンドからの選抜メンバーによるビッグバンド。いつも安定した、そして瑞々しい演奏を聴かせてくれる。今回は小曽根真も参加して、オープニングを盛り上げてくださった。バンドの面々にとっても、いい経験になったことだろう。
〈ポール・グラボウスキー・カルテット〉
 3年連続となるポール・グラボウスキー(ピアノ)はロバート・バーク(サックス)、サム・アニング(ベース)、ジョー・タリア(ドラムス)というメンバーのカルテットで来盛。私は2015年「いわてジャズ」でポール・グラボウスキーを知った。大きな収穫だった。
 ヨーロピアン・ジャズなのだが、オーストラリアだと知って驚いたものだ。ひじょうに難しいジャズである。にもかかわらず、聴いていて心地いい。
 余談だが、ジャズには2種類あると思っている。酒場のジャズと大学のジャズである。“いわてJAZZ”スペシャル・バンドが酒場のジャズであり、ポール・グラボウスキーは大学のジャズである。今年もいかにも大学のジャズらしい先鋭的な音を聴かせてくれた。
 特筆すべきは津軽三味線と民謡のコラボレーションで聴衆を大喜びさせた三上紀子だろう。三上さんが正統的な民謡や三味線を演奏する中、グラボウスキーとロバート・ダークが前衛的な演奏で呼応する。これは「いわてジャズ」ならではの聴きものだった。このアイデアとそれを実現させた岩手県民会館にも拍手を送りたい。
〈川口千里TRIANGLE〉
 女子大生ドラマー川口千里は、フィリップ・セス(キーボード)とアルマンド・サバルレッコ(ベース)を率いてのトリオで演奏。トリオとはいえ、フィリップ・セスはさまざまなキーボードを操って分厚いサウンドを出す。川口千里はリズムをキープするのではなく、派手なオカズだけのドラミングだ。サバルレッコの超絶技巧ベースと相まって、クォリティの高いフュージョン・サウンドで客席を湧かせた。
 実は正直なところ、あまり期待していなかったのだが、事前に聴いておいたCDを遥かに凌ぐパワフルな演奏に圧倒された。そして、このバンドの要であるフィリップ・セスがとてもよかった。
 フィリップ・セスはフランス出身のキーボード奏者・アレンジャー・プロデューサーです。デイヴィッド・ボウイやローリング・ストーンズとも共演をするなど、ジャンルを超えた活躍で知られている。日野皓正や角松敏生など日本人ミュージシャンとの共演も多い。フィリップ・セスが参加していたせいか、1980年代のロックやフュージョンが思い起こされ、それも私には嬉しかった。
〈パット・マルティーノ・トリオ〉
 ジャズギターの「レジェンド」パット・マルティーノ(ギター)は1967年にジャズの名門プレスティッジからリリースされた初リーダーアルバム『エル・オンブレ』によって一躍を浴びたものの、70年代後半に致命的な脳動脈瘤を患う。手術で一命は取り留めたが、記憶を失い、もちろんギターも弾けなくなってしまった。懸命のリハビリによって1987年に復活した後も活動の中断を挟んで今に至っている。パット・ビアンキ(ハモンド・オルガン)、カーメン・イントレ(ドラムス)のトリオによる演奏は往年と少しも変わらず、次から次へと畳みかけるような演奏で聴衆を唸らせた。パット・マルティーノはとにかく音数が多く、「間」をつくらない。それでいて、無駄な音がないのだから恐れ入る。
 パット・マルティーノが好むハモンド・オルガンとの組み合わせを聴けたのもよかった。なお、ハモンド・オルガンが入る場合、今回のようにベーシストがいないことが多い。これはハモンド・オルガンが足踏みベースを担当するからだ。
〈小曽根真 THE TRIO〉
 小曽根真(ピアノ)は20年近く前にトリオを組んだジェームス・ジーナス(ベース)、クラレンス・ペン(ドラムス)と約10年ぶりに再び活動している。川口千里と対局に位置するような渋いドラミングのクラレンス・ペンとジャズのお手本のようなコール&レスポンスを聴かせてくれた。
 小曽根さんは東日本大震災後に大槌をしばしば訪れ、音楽による心の復興に努めていらっしゃる。大槌町で流れている「ひょっこりひょうたん島」の時報も、小曽根さんのお仕事である。
 というわけでクォリティの高い、さまざまなスタイルのジャズをたっぷり味わうことができた。
 残念ながら客席に空席が多いことが気になった。パット・マルティーノは「通好み」だとしても、小曽根真はテレビでの露出も少なくないから、知名度が低いとは思えない。逆にジャズ好きのためのコンサートと見方を変えれば、これくらいの入りが順当なのかもしれない。つまり、客席を埋めるにはジャズファン以外の人にも訴求力のあるミュージシャンを呼んでくる必要があるということだ。これはなかなか簡単なことではない。下手をすると、肝心のジャズファンが離れることになりかねない。主催者の苦労のしどころだろう。
〈このごろの斎藤純〉
〇120年の伝統を誇る盛岡市立城南小学校の同窓会会長を仰せつかりました。卒業生のみなさん、よろしくどうぞお願いします。
川口千里:BUENA VISTAを聴きながら