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◆ 第244回 食文化を考えさせられた芝居(7.March.2011)

 第3回劇団モリオカ市民公演『わんこそばの降る街』を見てきた。これは一般公募の市民と劇団関係者らサポートスタッフによって(キャスト、スタッフ合わせて総勢200名にもなる)2007年から盛岡劇場で行われてきたもので、第1回公演「冷麺で恋をして」(2007年)、第2回公演「わたしのじゃじゃ麺」(2009年)が好評を博し、演劇のまち盛岡を強く印象づけた。
  冷麺、じゃじゃ麺とくれば、次はやはりわんこそばだ。2年に1度の市民劇に今年も多くのファンが詰めかけ、2月26日・27日、計3公演の入場者数は1,100人を超え、過去最高(盛岡経済新聞)となった。

 ときは近未来。わんこそばをファストフード化した全国チェーンの進出に、老舗のわんこそば店が圧されていく。そこにアメリカ留学中だった跡取り息子が帰ってきて、老舗の復興を画策する。
  まあ、そんなお話だが、「伝説のお給仕」を配して過去と未来をつなげるあたりはおみごと。
 ユニークなのは、第1部の脚本は高村明彦、同演出は吉田瑞穂、第2部の脚本は遠藤雅史、同演出は臼井康一郎、第3部の脚本はくらもちひろゆき、同演出は高村明彦と分けた点だ。これをまとめあげた総合演出はくらもちひろゆき。第1回公演から鰻登りの人気ぶりだったから、さぞプレッシャーも大きかったに違いないが、難なく(実際は難ありだったかもしれないけれど)こなしたのは、さすがだ。舞台上で本物のわんこそば大会が始まるなど、盛岡ならではの演出も楽しむことができた。

 特筆したいのはキャストである。主役を演じた豊岡広信さんも鈴木そのえさんも、劇団員ではないと聞いた。
  豊岡さんは「これ以上の大根役者はありえない」という芝居で、当初はハラハラして見ていたが、しだいに「もしかすると、これは演技なのではないか」と思えてきた。あのトボけたキャラクターが演技だとしたら、そうとうな強者である。
  正統派の芝居を見せてくれた鈴木そのえさんにも大きな拍手を送りたい。
  若い人ばかりではない。給仕の4人組「風林火山」を演じた4人の先輩方にも圧倒されどおしだった。
  いずれにしても、盛岡にはこんなに濃いキャラクターがいるのか、と驚くやら感心するやら。もちろん、それぞれの個性を引き出した演出の力が大であることはいうまでもない。

 芝居を見終えて、ちょっと考えることがあった。地方都市が疲弊していく中で、「食」が活性化の軸となっている。「食もアートだ」というスローガンで北イタリアから世界に広まっていったスローフードというムーブメントは、地域固有の「文化」を見つめなおすきっかけになった。
 劇団モリオカ市民のこれまでの取り組みは、まさに食を文化としてとらえた一大プロジェクトだった。そんな一大プロジェクトを実現できる人材に恵まれていることを、劇団モリオカ市民は教えてくれたように思う。

◆このごろの斎藤純

○ようやく春めいてきた。私は花粉症持ちなので、今から予防を心がけている。

クラシカル・チルを聴きながら