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目と耳のライディングバックナンバー

◆第307回  山下達郎を聴いて (5.Nov.2013)

 山下達郎のコンサートツアー「PERFORMANCE 2013 TOUR」を10月27日中野サンプラザで聴いてきた。開演6時、アンコールが終わったのが9時20分ごろと、例によってたっぷりと濃密な時間を過ごさせてもらった。
 かつてはニューアルバムの発売と併せてコンサートツアーをしていた山下達郎は、4年前から毎年コンサートツアーをやるようになって3シーズンめになった。幸いなことに私はいずれも聴いてきた(チケットが当選したホールに行くため、郡山、宇都宮とあちこちで聴くことにもなったが)。今回は念願の中野サンプラザで聴くことができた。ここは山下達郎にとって原点、あるいはホームといっていいホールだ(私は20数年前にも中野サンプラザで山下達郎を聴いている)。
 今年は傑作『メロディーズ』の発売30周年、『シーズンズ・グリーティング』の発売20周年にあたり、それぞれニューリマスター(+ボーナス・トラック)盤CDが再発され、好評を博している。ちなみに私は『メロディーズ』をLPで買い、CD化されたときに買い直し、今回もまた買ったので同じものを3度も買ったことになる。いやはや。
 達郎のコンサートには「どの曲をやってくれるだろうか」という期待を持って出かけるファンが少なくない。なにしろ活動歴が38年にも及び、シングルよりもアルバムを重視してきたミュージシャンだから、我々ファンの要求に応じていたら、いくら長時間のコンサートとはいえ時間が全然足りない。
 そこで結局、「自分の好きなようにやるしかない」という結論に至り、そのとおりに実行されている。今回は上記の2枚から重点的な選曲となっていて、『メロディーズ』と『フォー・ユー』のファンである私としては嬉しい内容だった。
 さらに山下達郎は今年、還暦を迎えられたという。見た目はまったくそうは見えないし、声も若い。ご自身も「体が丈夫」であることを力説なさっていた。また、声についても「まだオリジナルのキーで歌える」とおっしゃっていた(たいていの場合、年齢とともにキーが下がっていき、半音とか1音下げて歌うことが珍しくない)。
 そんなわけで客席は10歳前後(たぶん、おじいちゃんに連れてきてもらった)から70代まで実に幅広い。もちろん、圧倒的に多いのは50歳前後(つまり、私と同年齢)だ。
 達郎は盛んに「この歳でステージにこうして立っているとは想像できなかった」とコメントしていたが、私もこの歳で活きのいい達郎を生で聴けるとは思っていなかった。だから、コンサートホールにいた3時間あまりの時間がとても愛しくてならなかった。
 達郎を聴きながら、「いろいろなことがあったけれど、おまえさんもよくぞ今日まで頑張ってきた!」と決して手放しにではなく、また絶賛でもなく、いたわるような気持ちで私自身に声をかけていた。
 達郎をちゃんと聴くようになったのは20代半ばだったから、もういい大人だった。青春をともに過ごしたというわけではないが、達郎の音楽と30年近く歩んでこられたことを私は幸せだったと思う。 同時にまた、小泉今日子が『あまちゃん』ブームについて綴ったエッセイ(2013年10月10日・読売新聞)も思いださずにはいられない。キョンキョンはその中で「若者達が夢を持ちにくい時代なのだと何かで読んだ。ひとりの大人として申し訳なく思う」と書いている。私はそんなふうに自身を省みたことがなかった。こんなに胸が熱くなる文章を私は久しく読んだことがなかったが、キョンキョンに背中をドンと叩かれたような気がした。
〈このごろの斎藤純〉
〇体調を崩してしまった。溶連菌という子どものかかる病気にかかって、高熱が出たのだ。私のまわりに風邪はもちろん、いろいろと体の不調を訴える人が少なくない。「夏の疲れが出たんだよ」という人もいる。そうなのかもしれない。
〇猛暑の夏からいっきに冬になったため、途中の秋がすっぽり抜けてしまった。来年は穏やかな年であってほしい。
ハルトマン:弦楽四重奏作品集を聴きながら

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