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目と耳のライディングバックナンバー

◆第318回  ヴァイオリンとチェロの二重奏を聴く (21.Apr.2014)

 宮古出身のヴァイオリニスト・伊藤奏子さんと、イギリス出身のチェリスト・マーティン・ストーリーさんのことは、この連載でも過去に何度か書いてきた(マーティンさんと奏子さんは改めて言うまでもないと思うが、ご夫婦)。2009年以来、久しぶりに夫婦共演を聴いた。
伊藤奏子 マーティン・ストーリー
~ヴァイオリンとチェロのひととき~
2014年4月5日(土)午後4時開演
もりおか啄木・賢治青春館 2階展示ホール

第1部
バッハ:インヴェンションより第1番、第8番
バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番
ウェーバー:舞踏への勧誘

第2部
ヘンデル:調子のいい鍛冶屋
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第4番
ヘンデル(ハルヴォルセン編曲):パッサカリア
 マーティンのバッハ解釈は定評あるところで、この日の演奏にも舌を巻いた(感銘を受けた、というよりも、舌を巻いたというほうがより相応しい)。作品の奥まで知り尽くしているから見通しがよく、包容力豊かな人格も感じさせる。また、あまり聴く機会のないイザイの無伴奏ヴァイオリンソナタを伊藤奏子さんの確かな演奏で聴けたのは大きな収穫だった。
 伊藤さんが解説でもおっしゃっていたように、ヴァイオリンとチェロの二重奏作品はそう多くない。選曲に苦労されたそうだ。
 バッハのインヴェンションは鍵盤楽器のための作品だが、ほかのバッハの器楽曲がそうであるように、編曲版でも充分にその価値が伝わってくる。
 ヘンデルのパッサカリア(ハルヴォルセン編曲)はヴァイオリンとヴィオラによる演奏が一般的だが、ヴィオラの代わりにチェロで弾いてもいいことになっている。というように一曲ごとに伊藤奏子さんによる解説があり、和やかな雰囲気の中で、高度な演奏を楽しむことができた。
 この曲からはクラシック以外の音楽で「聴いたことがある」ような印象を受けた。1960年代から70年代にかけてヒットしたダニエル・ビダルらフレンチ・ポップスにどこか似ているのだ。つまり、フレンチ・ポップスはバロック音楽の影響を強く受けているということになる。ヨーロッパ文化の奥深さを改めて感じた。
 終演後、伊藤奏子さんに少しお話をうかがうことができた。伊藤さんはカンザスシティ交響楽団のコンサート・ミストレル(男性の場合はコンサート・マスター)として長くアメリカで暮らし、現在はグラスゴー(イギリス)で暮らしている。どちらが暮らしやすいですかと訊くと、「人間関係についてはオープンなアメリカのほうが築きやすい。生活もアメリカのほうがのびのびと暮らしやすい。でも、クラシック音楽家としては、イギリスで暮らしているほうが得るものが多い。アメリカでは教える立場でしたから、勉強することがあまりできませんでした」とおっしゃっていました。なるほどと頷くことばかりでした。
 それにしても、こういう地味な(別の言い方をするなら、通好みの)室内楽のコンサートが満員になるのが、盛岡の凄いところだと思う。
〈このごろの斎藤純〉
〇今年初のツーリング、今年初のサイクリングと「初」が続いた。とたんに体調(精神状態)がよくなったのと感じる。体は正直だ。
ペンタングル:アンソロジーを聴きながら