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目と耳のライディングバックナンバー

◆第327回  野村胡堂と浮世絵 (8.Sep.2014)

 『ルパン三世』の実写版が公開されている。ルパンとその仲間たちのキャラクターが、このシリーズの眼目でもある。そのユニークなキャラクターの一人が、ルパンを地の果てまで追いつづける銭形警部だ。
 銭形警部の名が、銭形平次からきていることは言うまでもないだろう。その銭形平次の生みの親が、紫波町出身の作家野村胡堂だ。 と、くどくど書いたのにはわけがある。銭形平次を知らない世代が増えてきているのだ(少子高齢化とはいえ)。
 野村胡堂はあらえびすの別名でクラシック・レコードの評論も数多く書いた。日本最初のクラシック・レコード評論家と言っていい。このことも、案外、知られていない。
 たとえば、10年ばかり前に故ムスティラフ・ロストロポーヴィチとともにコンサートキャバンで岩手県内をまわった際に、野村胡堂あらえびす記念館にお立ち寄りになった小沢征爾氏が「あらえびすって岩手の人だったの? 僕はあらえびすの『名曲決定盤』でずいぶん勉強したんだよ」と驚かれ、さらには「銭形平次の野村胡堂とあらえびすが同じ人だったとは!」とも。
 野村胡堂・あらえびすは、SONYの大恩人でもある(このことはちょっと調べればわかるので、ここでは触れないが、野村胡堂あらえびす記念館はこのことをもっと大きく紹介しても罰は当たらないだろうに)。
 紫波町の野村胡堂あらえびす記念館で「歌川広重『東海道五十三次』・野村胡堂『三万両五十三次』」展を開催中だ。
 『三万両五十三次』は1932(昭和7)年3月から翌年の7月まで報知新聞に連載した長編小説だ。この取材のために胡堂はハナ夫人と一緒に東海道をクルマ(チャーターしている)で旅している。また、このときに資料として用いた歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」に魅せられ、蒐集を始めている。
 胡堂・あらえびすは日本でも有数のクラシック・レコード蒐集家であり、その一部は同記念館に寄贈され、定期的に開かれているレコード・コンサートでその音を聴くことができる。
 胡堂は浮世絵のコレクターでもあった。胡堂は浮世絵を蒐集するにあたって、「肉筆は買わない(版画だけを買う)」、「美人画は買わない(風景画だけを買う)」などの制限を設けている。肉筆は高価だし、投機の対象にもなっていて、贋作も少なくない。また、ちょっと艶っぽい「美人画」にも手を出さないと決めていたあたり、いかにも胡堂らしい話だ(ちなみに、胡堂は酒も飲まなかった)。胡堂は江戸風俗に詳しかったし、十代のころには画家になりたいと思い、水彩絵の具で風景画を描いているから、広重には大いに共感したに違いない。
 この展覧会では、広重の『東海道五十三次』の名所図絵に合わせて、胡堂の『三万両五十三次』からの抜粋が添えられている。全部読んでみたくなったが、残念ながら現在は絶版となっている。
 とても工夫した展示ながら、欲をいえば、東海道五十三次の全体像を掴める絵地図が貼ってあればもっとわかりやすかった。
 展示スペースが狭いため、この企画展は3期に分けられている。すでに2期まで終わっているが、岩手で浮世絵はなかなか見られないので、この機会をお見逃しなく。
第1期 6月10日(火)~ 7月21日(月・祝)
 表紙、東海道五十三次之内 日本橋~蒲原

第2期 7月23日(水)~ 9月 4日(木)
 東海道五十三次之内 由井~御油

第3期 9月 5日(金)~10月19日(日)
 東海道五十三次之内 赤阪~京(予定)
 冒頭、銭形平次を知らない世代が増えていると書いたが、来年にはテレビ・シリーズが再開されるらしい。誰が銭形親分を演じるのだろうか。今から楽しみだ。
〈このごろの斎藤純〉
○来月開催される「中津川べりフォークジャンボリー」に、30数年前につくったオリジナル曲をひっさげて出演することになった。
○急に涼しくなり、空の色も秋っぽくなってきた。終わってみれば短い夏だった。
フレッド・カッツを聴きながら

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