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目と耳のライディングバックナンバー

◆第329回  盛岡の古くて新しい観光スポット (6.Oct.2014)

 この夏、盛岡市鉈屋町に「もりおか町家物語館」がオープンした。これは、旧岩手川酒造鉈屋町工場跡を盛岡市が取得し、耐震化・バリアフリー化した母屋・文庫蔵・浜藤の酒蔵・大正蔵からなる文化・観光・商業施設として生まれ変わったものだ。
 鉈屋町は大正から昭和にかけての町家建築が残っていて、近年、官民協働で復元が進められた結果、一大観光地として注目されるようになった。この過程で、鉈屋町で暮らす人々(そして、盛岡市民)は、潜在する「町の魅力」を引き出し、地元を再発見するという得難い経験を積んだ。それは鉈屋町ひいては盛岡での暮らしに「誇り」を持つことにもなったと思う。
 実は鉈屋町には幅28メートルの道路をつくる都市計画があったが、これは事実上、廃案となった。住民らの意思決定を市が尊重したもので、とても珍しく、貴重な事例だ。鉈屋町に暮らす人々の「誇り」と「尊厳」を示す好例でもある。
 都市化(都市化は画一化と同義でもある)が進む盛岡にあって、鉈屋町の存在価値は計り知れないものがある。古い町並みというのは、つくろうと思ってもできるものではない。長い歴史(時間)と人々の暮らし(文化)があって実現するものだからだ。
 かつての寂れた町だった鉈屋町は、遅れた町といってもよかった。それがわずか十年ほどで、最先端の町になった。その原動力となったのは住民らの熱意と創意だ。また、地道な啓蒙活動を続けてきた「盛岡まち並み塾」の力も少なくない。
 その鉈屋町にオープンした「もりおか町家物語館」は、鉈屋町のみならず、盛岡の観光拠点として、また盛岡市民の憩いの場として、大いに期待されている。
 「もりおか町家物語館」は大きく分けて展示、販売、集会(ホール)、見学のスペースとさまざまな利用が考えられる広場がある。この広場の活用方法がひとつの決め手になるような気がしている。 盛岡市は旧県立図書館を「盛岡歴史文化館」として再利用した実績がある。盛岡歴史文化館にも広場があり、物産展などに利用されている。中津川をはさんで向こう岸にはプラザおでってがある。プラザおでってにも広場があり、古本市などが開催され、街の賑わいをつくっている。そういう視点で見ると、盛岡市は文化施設に共通して広場を併設している。これはとてもいいことだと思う。しかも、盛岡には「盛岡城跡公園(岩手公園)」という巨大な広場もある。広場というのは、ある意味では無駄なスペースだ。けれども、都市ではこの無駄なスペースが大切なのだ。
 広場の使い方やその工夫しだいで、盛岡はもっと楽しい街になる。
 話を「もりおか町家物語館」に戻す。
 脚本家の内館牧子さん(ご尊父が盛岡市出身ということもあって大の盛岡贔屓として知られている)が、週刊朝日に連載されているエッセイ「暖簾にひじ鉄」で、「もりおか町家物語館」のことを紹介してくださっている。内館さんは、新しいものをつくるのではなく、今あるものを生かす盛岡市の手法をとても高く評価している。このエッセイの結びの部分を引用しておこう。
〈(鉈屋町の)町並みやこの「この物語館」をさらに活性化の材料として生かすには、多くの困難もあろうが、「今あるものを生かす」という考え方は間違いない姿勢だと思う。
 ちなみに、同館の名誉館長は盛岡在住の作家高橋克彦さんで、館長は滝沢氏在住の彫刻家長内努さんだ。ここでもちゃあんと、「地元のお宝」を生かしているのである。〉
〈このごろの斎藤純〉
○盛岡文士劇の稽古が始まった。今年はご常連の内館牧子さん、井沢元彦さんに加えて、盛岡出身の作家久美沙織さんと日本文学研究者のロバート・キャンベルさんも出演される。
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第4番を聴きながら

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