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目と耳のライディングバックナンバー

◆第333回 中田佳代子とフラメンコ (1.Dec.2014)

 11月22日、夜。満員の岩手県公会堂大ホールがフラメンコの熱気に包まれた。中田佳代子さんのステージにはいつも驚かされるが、『融合』と題された今回のステージも期待を上回る内容だった。
 中田佳代子さんのステージについては前にも書いた(第276回参照)。中田さんはあのときもフラメンコとほかのジャンルの融合に挑戦なさった。あのステージの興奮は今も忘れられない。そもそも日本人である中田さんがフラメンコを踊りつづけていることが、みごとな融合を体現していると言っていいのだが。
 今回、本格的なフラメンコでステージは始まった。その瞬間から会場は異次元の世界になった。客席を埋めつくした人々(もちろん、私も含む)は中田さんの一挙一動はもちろんのこと、その呼吸にまで魅了させられていった。
 メンバー(下記をご参照ください)も中田さんの意図をよく理解し、ソロ演奏の際に素晴らしい「融合」を聴かせてくれた。たとえば、ラファエル・ロドリゲスのギター独奏には中東風のメロディが散りばめられていた。もとよりスペインはイスラムと融合した文化を持つ国だ。そのことを改めて感じた。また、ヴァイオリンのSAYAKAはバロックのヴィバルディからタンゴのアストル・ピアソラまで実に幅広い融合ぶりを聴かせてくれた。そして、黒澤博幸の津軽三味線は、まるで津軽三味線とフラメンコが同じひとつのルーツであるかのようでさえあった。
 一番驚かされたのは、やはり上根子神楽との共演だ。私は初めて見たが、動きが鋭く、ユーモアもあり、見応えのあるものだった。中田さんがこの神楽を選んだ審美眼に感服する。
 いつか私は中田さんに「どうしてフラメンコを踊るようになったのか」と質問をしたいと思っていた。これは「なぜフラメンコを選んだのか」という意味でもある。今回のステージを見て、中田さんに直接うかがうまでもなく、私はその答えを得られた。
 中田佳代子さんがフラメンコを選んだのではない。フラメンコが中田さんを選んだのだ。
■ラファエル・ロドリゲス(ギター)=スペインで今最も「伝統的かつ革命的」なギタリスト。エル・カブレロ、ロシオ・モリーナなどスペインのトップアーティスト達から絶大な支持を受けている。
■ホセ・アニージョ(唄)=エンリケ・モレンテも絶賛した若きベテラン。マヌエラ・カラスコやファルキートなど、著名なアーティストと共演。その透明でいて力強い歌声は希有である。
■黒澤博幸(津軽三味線)=全日本金木大会優勝3連覇、津軽が認めた真の津軽三味線奏者。一つ一つの音に魂が宿る、じょっぱり演奏家。岩手県盛岡市出身。
■SAYAKA(ヴァイオリン)=キューバの国宝と称されるヴァイオリニスト、ラザロ・ダゴベルト・ゴンザレスに認められ、ジャンルを問わず多くのトップアーティストと共演する国際的なヴァイオリニスト。
■GENKI(パーカッション、その他)=キューバ、ギニア、スペインなどでダンスとパーカッションを学び、さまざまなジャンルの要素を取り入れた独自のスタイルを築きあげた。
■上根子神楽=岩手県花巻市上根子地区に伝わる、修験系の山伏神楽。同流独特の流れるような動きが特徴。子供から大人まで参加し、地域で伝統を守っている。花巻市指定重要無形文化財。
■伊集院史朗(踊り、手拍子)。ギタリストの沖仁、唄い手の石塚隆充、踊り手の吉田光一と共に「クアトロカミーノ」を結成し、全国ツアーで絶賛される。
〈このごろの斎藤純〉
〇盛岡文士劇の稽古が佳境を迎えている。私はようやく台本を見ないで演じられるようになった。が、今度はダンス(ワルツ)をなかなか覚えられないという事態に…。一難去ってまた一難、前途多難な今日このごろである。
ロドリーゴ:交響詩《遙かなるサラバンドとビリャンシーコ》を聴きながら

ブログ:〈続〉流れる雲を友に