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目と耳のライディングバックナンバー

◆第342回 水彩画の世界 (20.Apr.2015)

 岩手町立石神の丘美術館で『古山拓 水彩画展』がはじまった(5月31日まで)。岩手県山田町出身の古山さんは、石神の丘美術館がある岩手町で子どものころに暮らしていたことがあるという。企画展の打ち合わせのために仙台のアトリエにうかがったときにこのお話を聞き、縁とは異なものだと思った。
 古山さんは仙台に拠点をかまえ、水彩画画家として、また商業イラストレーターとして活躍なさっている。現在、岩手日報に大村友貴美さんが執筆している連載小説『ガーディアン』の挿画も担当され、多忙な日々を過ごしていらっしゃる。
 私は2009年に石神の丘美術館の芸術監督に就任したときから、いつか古山さんの個展を開きたいと考え、機会を待っていた。『ガーディアン』の挿画の原画を展示することができれば、展示の幅がひろがる。好機到来と捉え、今回の企画展の実現に至った。
 ところが、誤算が生じた。
 大村さんが乗りに乗っていて、『ガーディアン』の連載がまだ終わっていない。つまり、完結していない連載小説の挿画(原画)を展示することになったのだ。これは前代未聞ではないだろうか(すべての挿画の中からベストを選ぶのが一般的だから)。
 もっとも、考えてみれば、ほかの作品も「現在までのベスト」ではあるが、古山さんはまだまだこれからもたくさんの作品を発表していくのだから、「途上の過程」の作品ともいえる。だから、完結していない連載小説の挿画を発表することにも不都合はないと考えていいだろう。
 古山さんと一緒に展示作業を進める中で、おもしろいことがあった。
 イギリスを描いたシリーズ、三陸など東北を描いたシリーズ、岩手町を描いたシリーズと分けて展示をすることになった。
「これは、こっちに掛けるほうがいいんじゃない」
 私が絵の移動を提案すると、古山さんに止められた。
「純さん、それは三陸の絵ですから、こっちにないと---」
「え、これはイギリスじゃないの?」
「違います」
 実は古山さんはしばしばイギリスと岩手の風景が似ているとおっしゃっている。イギリスで絵を描いているときに岩手を想い、岩手で絵を描いているときにイギリスを想う。この言葉の意味が、作品を通してダイレクトに伝わってくる経験だった。
 岩手町を描いたシリーズはこの企画展のための新作で、とても見応えのある作品ばかりだ。古山さんは「ふるさとを見つめなおす、いい機会になった」とおっしゃっていたが、地元で暮らす人たちにとっても、この作品群には目をひらかれることになるだろうと思う。
 展覧会の期間中、古山さんによる水彩画のワークショップもある。詳しくは岩手町立石神の丘美術館(0195-62-1453)にお問い合わせを。
〈このごろの斎藤純〉
○例年よりも早く桜の季節を迎えた。今週は花見(という名目の飲み会)が目白押しだ。
ザ・ベンチャーズ・ベストを聴きながら

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