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目と耳のライディングバックナンバー

◆第344回 杜の都と音楽の都 (25.May.2015)

 仙台フィルハーモニー管弦楽団の第291回定期公演を聴いてきた。プログラムはデュカス(フランス語ではデュカと発音する)の交響曲ハ短調とフォーレの「レクイエム」。「レクイエム」のソプラノは鈴木愛美、バリトンは堂本益光、合唱は仙台放送合唱団と東北大学混声合唱団、指揮は仙台フィル常任指揮者のパスカル・ヴェロ。
 デュカスの名と作品は初めて知った。フランス本国でも作曲家としてよりも、音楽教育者、批評家としてのほうが高名なのだそうだ。残された作品が20あまりと少ないが、これは自らの手で多くの作品が破棄されたためだという。ひとつの作品に10年もの歳月を費やしたことなどからもわかるように、完璧主義だった(後世の我々ためには、本人が気に入らなかった作品も残しておいてもらったほうがよかったが)。
 フォーレの「レクイエム」については改めて説明する必要もないだろう。フォーレの代表作であるばかりでなく、レクイエムの傑作でもある。
 フォーレはこの作品に何度か手を入れている。このごろは音楽学的な研究が進み、楽譜が三つくらいあって、その中から選ぶようになってきている。この日の演奏は楽器の編成からすると、一般的な最終バージョンだった(ちなみに、私が持っているCDは1893年の室内楽稿で演奏されている)。  中音域を中心にしたオーケストレーションで、作品全体の構成もさほど大きな起伏がなく、洗練の極みと言っていい作品だ。演奏するのも難しそうだが、聴くほうも細部に耳を澄ませる姿勢になる。内省的な作品と呼ばれる所以だ。
 ドイツ・ロマン派に影響を受けたデュカスの壮麗な交響曲の後に聴くと、フォーレの「レクイエム」の渋さが際立った。こういう曲はテクニックよりもセンスが肝心だ。弦楽器の中で最も目立たないヴィオラが、全編を通して重要な役割を果たしていることも大きな特徴だ。パスカル・ヴェロの指揮のもと、仙台フィルはその内声部をくっきりと聴かせつつ、水彩画を想わせる透明な響きで満たした。抑制の効いた合唱も美しかった。
 パスカル・ヴェロの指揮はかなりユニークだと思う。演奏する側の感想をいつか聞いてみたいものだ。
 仙台フィルの定期公演のプログラムを見ると、ひじょうに意欲的だ。いつも決まったプログラムしか聴くことができない盛岡のクラシックコンサート事情から見ると、とても羨ましい。クラシックファンを育てるためにも、仙台フィルの定期公演を半分の回数でもいいから盛岡でも組んでくれないものだろうか。
 仙台では3年ごとに仙台国際音楽コンクールが開かれていて、若手の音楽家の育成とともに市民と音楽家の交流が行なわれている。今年で25回を迎える定禅寺ストリートジャズフェスティバルは日本を代表する音楽祭となっている。
 まさに杜の都は音楽の都でもある。
〈このごろの斎藤純〉
○私の原点回帰傾向はとどまるところを知らず、とうとう「エレキバンド」を組むことになった。ベンチャーズなどのエレキ・インストはもちろん、ゲストにボーカルを入れて昭和エレキ歌謡も披露したいと思っている。
トニー・ハッチ作品集を聴きながら