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目と耳のライディングバックナンバー

◆第357回 秋田の宝を観る (7.Dec.2015)

 藤田嗣治の「秋田の行事」は、秋田県立美術館の目玉である。縦3.65メートル、横20.5メートルという大きさを誇るこの作品は、1937年(昭和12年)に、秋田の豪商・平野政吉の依頼で描かれた。ちなみに、平野は藤田のパトロンで、パリから日本に戻っていた時期の藤田の生活を大いに支えた。
 その平野政吉と藤田嗣治の交流をミュージカルに仕立てた『政吉とフジタ』(わらび座)を秋田市のにぎわい交流館AUで観てきた(11月22日午後1時30分開演)。
 脚本は秋田出身の内舘牧子さん、演出は2014年秋田県芸術選奨を受賞した栗城宏(わらび座)という強力な布陣だ。
 登場人物とキャストは、平野政吉に安達和平、マドレーヌに丸山有子、リエに碓井涼子(11月2日~11月10日は木原梨里子=長谷川事務所)、そして藤田嗣治に累央(劇団扉座)。8月30日から12月13日まで全125回ものロングラン上演だ。
 私はこれまでに藤田嗣治の「秋田の行事」を5回観ている。観るたびに秋田の人がつくづく羨ましいと思う。この作品には秋田の特産品と行事、四季などが巧みに描かれている。画面から秋田の人々の人間性まで伝わってくる。まさに「秋田の宝」だ。この絵を描いた藤田もさることながら、描かせた平野政吉にはいくら感謝しても感謝のしすぎにはならない。
 内舘さんの脚本は、藤田と政吉の出会いから、「秋田の行事」を描いた藤田が日本を去って再びパリに渡るまでを1時間半のコンパクトな芝居に凝縮させている。
 しかも、藤田を語る上では避けて通れない戦争画の問題にも正面から取り組んでいる。
 そこの場面で、藤田の作品をひとつも見られなかったのは残念だ。劇中で触れられる藤田の『アッツ島玉砕』はあまり観る機会のない作品だから、観劇者の中には観たことのない人が多い。しかし、権利関係の壁があって許可されなかったようだ。
 ちなみに、私は20年近く前に戦争画について調べたことがある。当時はまだ資料があまりなく、公開されている作品も少なくて、苦労を強いられた。あのころと比べると戦争画を観る機会も増えたし、資料も充実してきた。とはいえ、まだまだ充分に研究が行き届いているとは言えない。
 だから、戦争画について触れる場合は、作者の姿勢が問われる。内舘さんの解釈には異論もあろうかと思うが、私は我が意を得た思いがした。
 平野政吉役の安達和平さんと藤田嗣治役の累央さんの緩急自在のみごとな名演技とあいまって、私はもっと長い大作を観終えたような気持ちになった。ことに累央さんの藤田嗣治はハマり役だった。 できれば、もう一度観たいと思っているが、時間がとれそうにない。こういう舞台を観ることのできる秋田の人々がつくづく羨ましい。
 藤田嗣治の「秋田の行事」を私は秋田の宝だと書いたが、わらび座も秋田の宝だと言っていい。本当に羨ましい。
 今年は小栗康平監督、オダギリ・ジョー主演の映画『FUJITA』も封切りされた。見比べるのも一興だろう。
〈このごろの斎藤純〉
○盛岡文士劇の本番を目前にして、持病の良性突発性頭位目眩症を発症してしまった。これは女性に多い疾患で、男性は珍しいそうだが、なにしろ私は菅原章子(道長の娘)役なので…。
アラマバ・シェイクス:サウンド&カラーを聴きながら