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目と耳のライディングバックナンバー

◆第375回 夏だ! エレキだ!!(5.Sep.2016)

 岩手県内の公共ホール・文化施設は、それぞれユニークな自主事業を展開している。文化行政がさまざまな視点で注目され、再認識されている昨今の状況を反映しているともいえる。ちょっと専門的なことになるが、指定管理制度の導入も文化施設のあり方に(善くも悪くも)大きな影響を及ぼしている。
 早い話、文化施設を運営する側から言うと、お金さえあればなんでもできる。別の言い方をするなら、目立つ事業は予算さえあれば簡単にできる。それは、首都圏のホール状況を見れば一目瞭然だ。  ところが、地方都市では文化行政に多くの予算を割くことができない。そこで、創意と工夫が必要になる。
 創意と工夫をみごとに実践しているホールのひとつが、一関文化センターだと断言しても異を唱える人はそう多くないと思う。
 一関文化センターの事業を見ると、単に一関市という地域にとどまらず、広域を視野に入れていることが第一の特長として挙げられる。今年、第8回を迎えた『ザ・ロック・フェスティバル』しかり、27年も継続している『東日本合唱祭』しかりである。
 そして、私がザ・ジャドウズを率いて参加した『全日本エレキ音楽祭』も一関文化センターのこのような取り組みを象徴する事業だ。
 今年の『全日本エレキ音楽祭』(以下、エレキ音楽祭と表記する)は、8月20日(土)と21日(日)の二日間にわたって開催され、全国から20バンドが結集した。主にベンチャーズなどのエレキインストをレパートリーとするバンドで、ときおりボーカルも入る(規定により、演奏曲目の半数以上がインストでなければならない)。
 参加バンドは無償だが、自主コンサートを開く場合の経費を考えると、バンド側から見ればとてもありがたいイベントなのだ。もちろん、出演できるのは審査を通った(あるいは、相応の実績のある)バンドだけだ。
 私は昨年のエレキ祭をバンドのメンバーと一緒に「視察」し、出演バンドのレベルの高さに舌を巻いた。日本には「~ベンチャーズ」というバンドがたくさんある。ほとんどが実際にベンチャーズのメンバーと共演をしていて、演奏にも年季が入っている。エレキ音楽祭にはその中でも代表的なバンドが出演している。我々ザ・ジャドウズなどヒヨッコにすぎない。
 以前から「県南はエレキバンドが盛んだ」といわれていた。エレキバンドが盛んだったからエレキ音楽祭が誕生したのか、エレキ音楽祭があるからエレキバンドが盛んなのか。
 それはともかく、無謀にも私はエレキ祭に出演することを当面の目標にザ・ジャドウズの音楽活動を進めた。そして、落選を覚悟のうえでエレキ音楽祭事務局にオーディションCDを送った。
 オーディションを通ったときは声を上げて喜んだ。まさか通るとは思っていなかったのだ。バンドのメンバーも半信半疑だった。私が裏から手を回したのではないかという疑いも持たれた。誓って言うが、そんな事実はない。
 去年は客席でエレキ音楽祭を楽しむ立場だった私たちは、今年、客席のオーディエンスに楽しんでいただく立場になった。幸い多くのみなさんに喜んでもらうことができ、出演できて本当によかったと思っている。
 出演者の立場からエレキ音楽祭を見ると、実に運営がしっかりしていて、スタッフも実に熱心だ。初めての出演だったにもかかわらず、何の不安もなく本番を終えることができた。
 それもそのはず、エレキ音楽祭を始めた一関文化センターの館長は、シャイアンズというバンドを率いるギタリスト(実に艶っぽい演奏をなさる)でもあるのだった。
 そういう方が陣頭指揮を取っているのだから、全国のエレキバンドに信頼されているのも当然だろう。
 もうひとつ特筆しておくべきは、エレキ音楽祭と同時に全国地ビールフェスティバルが同じ場所で開催されていることだ。こちらは今年で19回目というから、これもまたよく継続している。この組み合わせは素晴らしいと思う。
 地ビールフェスのビールをエレキ音楽祭の会場に持ち込むことは禁止されているが、会場の出入りは自由なので、各地のビールと屋台の珍しい料理をいただいてから、またエレキ音楽祭を聴きに戻るということができる。
 エレキ音楽祭の会場もたくさんのオーディエンスで埋まっていたし、地ビールフェスは溢れるほどの人出だった。そして、ここばかりでなく、周辺の観光施設なども賑わっていたから波及効果の大きさが窺い知れる。
 エレキ音楽祭も地ビールフェスも実に楽しい。これなら毎年、楽しみにやってくる常連が少なくないのも頷ける。かくいう私も(エレキ音楽祭に出演できないとしても)来年もまた行くつもりだから、常連の仲間入りをすることになるだろう。
 なお、我々ザ・ジャドウズのセットリストは下記の通り(簡単な解説も付す)。
1. エマの面影(1960年代初頭に活躍した北欧のエレキバンド「ザ・サウンズ」のヒット曲。もとはフィンランド民謡)。
2. マン・オブ・ミステリー(英国のエレキバンド「ザ・シャドウズ」のヒット曲。私は小学生のころにこの曲が好きになり、いつか自分で演奏したいと思っていた。40数年かかって、それが実現したことになる)。
3. ジャニー・ギター(北欧の超人気エレキバンド「ザ・スプートニクス」のヒット曲。映画『大砂塵』のサントラをアレンジした作品)。
4. 涙の太陽(音楽評論家の湯川れい子が作詞家としてデビューした作品。昭和40年、エミー・ジャクソンによって大ヒットした。安西マリア、田中美奈子もリバイバルヒットさせている)。
5. 殺しのライセンス~非情のライセンス(前者は同名映画のメインテーマ。故大瀧詠一が高校の予餞会でこの曲をドラムス担当で演奏したという。後者は同名テレビシリーズのメインテーマ。この2曲を同じテンポで演奏するとソックリ)。
※4のゲストボーカルは石倉かよこ。
〈このごろの斎藤純〉
○台風10号の被害に遭われた地域のみなさまにお見舞い申し上げます。
○この夏を振り返ってみると、尾瀬トレッキングに初挑戦、安比高原から新ルートを通って茶臼岳登山、恒例の早池峰山登山、ザ・ジャドウズを率いて「道の駅石神の丘開業祭」と上記の「第7回全日本エレキ音楽祭」に初出演、「盛岡さんさパレード」に山岸伝統さんさ保存会の一員として初出演、岩手町立石神の丘美術館の企画展『斎藤純と旅する ぶらり北緯40°』展の開幕、そしてラジオ出演、講演、出張等々と公私ともに充実した日々を過ごした。もちろん、私が編集長をつとめている『街もりおか』の発行に加えて、『ガチャダラポンTV』(岩手めんこいテレビ)の収録などレギュラーの仕事も並行してこなした。私は夏に体調を崩す傾向があり、これまでに頸椎椎間板ヘルニアや顎関節症などを患って、つらい夏を過ごすことがしばしばあった。今夏はハードなスケジュールにもかかわらず無事に過ごすことができた。改めて健康のありがたみをしみじみ感じた。それにしても暑い夏だった。
山下達郎:OPUSを聴きながら