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目と耳のライディングバックナンバー

◆第402回 動物と人間の暮らし(23.Oct.2017)

 動物と人間をテーマにした興味深い企画展を二つ紹介したい。
 一つは、もりおか歴史文化館で10月9日まで開催されていた『アニマルズ×モリオカ -資料のなかの動物たち-』だ。盛岡藩時代の歴史的資料を中心に、南部家ならびに盛岡藩の庶民たちとさまざまな動物の関わりが博物学・美術・民俗など多視点で展示されていて、学芸員の創意と工夫が感じられる内容でもあった。
 まず美術品には、南部家お抱え絵師だった川口月嶺の「鶴之図」、「軍鶏図」、「野猿之図」など江戸時代の絵画から、南部鉄器の鈴木盛久14代目にあたる鈴木貫爾による立体作品「バンビ」など現代の作品までが展示されていて、見応えがあった。実は私は月嶺をあまり評価していなかったのだが、今回の展示品を見て、反省をしている。南部家の資料からは、11代盛岡藩主・南部利敬による「群鶏図」が文化芸術に理解のあった藩主像を伝えている。
 最も私が興味を持ったのは、月嶺による「日本狼図」だ。本物を見て描いたのか、伝聞によるものなのかわからないが、いずれにしても明治期にオオカミが絶滅してしまうから貴重な記録だろう。
 江戸時代はオオカミに人が襲われる事件が多発したため、オオカミを専門の駆除ハンターが活躍をしている。その記録のひとつ、狼取清十郎の「狼害毒薬調合覚」も興味深かった。これは、もう一つの展覧会と深く関わっている。
 それは、東北歴史博物館で11月19日まで開催中の特別展『熊と狼-人と獣の交渉誌-』である。
 この特別展では、東北地方においてツキノワグマが自然からの大いなる恵みだったこと、オオカミが信仰の対象であるのと同時に人間を襲う脅威的な存在だったことなどが紹介されている。ツキノワグマについてはマタギに重点が置かれ、その分野の研究における第一人者である東北芸術工科大学の田口洋美教授の研究成果が効果的に用いられていた。
 田口教授とは私が長編小説『夜の森番たち』(2017年)を書くときにマタギについてレクチャーを受けて以来、20年に及ぶ付き合いになる。彼のライフワークの一端に、この特別展で触れることができたことも私にとっては意味深かった。
 また、もりおか歴史文化館からも多数の資料が提供されていた。
 ところで、この特別展によって、ニホンオオカミが絶滅に至る歴史認識を私は改めることになった。以下、その件について短くまとめておく。
 ヨーロッパでオオカミは、牧畜の牛を襲うなどする害獣だったため積極的に駆除が行われてきた(古来、オオカミは崇められる対象だったが、キリスト教が布教のためにオオカミを悪者にしたという背景もある)。一方、日本でオオカミは農作物に被害を与える害獣を餌として獲ってくれるから、農家の味方だった。太古からオオカミが崇められてきたのはその証左である。ちなみに、オオカミとは大神でもある。
 ところが、明治維新後に状況が一変する。日本は西洋に追いつけ追い越せと欧米からさまざまな技術、科学、文化、芸術などを受け入れた。その際、牧畜国の欧米ならではの「オオカミ駆除」も日本に導入された。
 もちろん、明治期には牧畜も導入されたが、全国規模で駆除する必要などなかった。つまり、単に「欧米の物真似」でオオカミ駆除が行われ、その結果、ニホンオオカミは絶滅した。
 以上が私の認識だったが、特別展『熊と狼-人と獣の交渉誌-』には、江戸時代にオオカミに人間が襲われた悲惨な事件の記録(報告書)がたくさん展示されていた。それを見れば、日本でもオオカミ駆除が命懸けで行われてきたことが納得できる。
 というわけで、とても勉強になった。
 オオカミは絶滅してしまったから事件(被害)はないが、ツキノワグマと人間のトラブルに関しては枚挙に暇がない。つまり、この企画展は現代の問題でもあるのだ。
〈このごろの斎藤純〉
〇東北歴史博物館(多賀城市)には初めて行ったが、巨大な施設でびっくりした。
○今年はマツタケが不作だったが、紅葉が素晴らしい。マツタケと違って紅葉はお金にならないが、別の見方をするならば、お金に換算できないほど貴重な資源だと思う。
ザ・ローリング・ストーンズ・ライブ・イン・キューバ2016を聴きながら