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目と耳のライディングバックナンバー

◆第406回  23回目の盛岡文士劇(25.Dec.2017)

今年も無事成功裏に盛岡文士劇を終えることができた(12月2日夜の部、12月3日昼夜の部。計3公演)。実行委員会ならびに出演者・関係者一同に代わって、お礼を申し上げたい。私は時代劇に今年も出演させていただいたので(これで21回目の出演。東京公演も合わせると22回となる)、裏側から見た文士劇の感想を記しておこうと思う。
 演目の『忍夜恋倭心中(しのびよるこいやまとしんじゅう)』は、シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を下敷きに、設定を古代日本に置き換えて、いつもの道又力さんが書き下ろした。『ロミオとジュリエット』のエッセンスをうまく詰め込んで、あの悲恋物語を笑いあり、涙ありのメリハリある芝居に仕立ててある。
といっても、笑いの部分を引き出したのは演出を担当された安達和平さん(わらび座)である。解釈によって、脚本がさまざまな表情に変わることを、安達さんは身をもって示してくれる。稽古中、自分の演技のことはさておいて、その演出ぶりを見るのが私の楽しみだった。
守緒(原作ではロミオ)を演じたIBC岩手放送アナウンサーの甲斐谷望さん、憂莉依媛(原作ではジュリエット)を演じた岩手めんこいテレビアナウンサーの米澤かおりさんは、30回ほどあった稽古のほとんどに参加された。お二人とも夕方のニュースというレギュラー番組を担当していて多忙なのに、ただただ頭が下がる。稽古熱心といえば、ミスさんさの中井奏絵さんと真田茉里子さんもよく時間をつくったものだと感心させられた。お二人は二役を演じ、また、舞台上でさんさ踊りも披露した。さんさ踊りとは関係のない曲で踊ったのはみごとというほかない。
常連ゲストの仲間入りをされた言語学者の金田一秀穂さんは、「天然ボケ」ぶりが観客に受けている。あれが実は計算ずくの演技だということはあまり知られていない。いや、ほとんど知られていない。計算をしての演技ではあっても、計算通りに行くとは限らない。「今回はタイミングが合った」とか「今回はタイミングが外れた」などと出番を終えて舞台袖に引っ込んでくるたびに反省の弁を口にされていた。
日本文学研究家のロバート・キャンベルさん、作家の北上秋彦さん、岩手日報社の菅原和彦さん、作家の久美沙織さんと澤口たまみさん、そして時代物には初出演のIBC岩手放送アナウンサーの江幡平三郎さんは役づくりに必死に取り組みつつ、役を楽しんでもいた。稽古中、この方たちの演技を見るのも楽しみだった。なにしろ、回を重ねるごとにどんどんよくなるのだ。
特筆しておくべきは、佐久良亮(憂莉依媛の乳母)を演じたエフエム岩手アナウンサーの阿部沙織さんである。この役は、ひとつの場の内で笑わせたり泣かせたりという大きな緩急が求められ、しかも芝居の狂言回しめいた役割もあって、とても難しい。たぶん阿部さんでなければ不可能だっただろう。稽古中に私たち共演者から拍手が起きたこともある。それだけ名演だった。
私は憂莉依媛の婚約者の日向(原作ではパリス)役だった。大金持ちの御曹司で二枚目という役だが、なぜか「オカマ」役になってしまった。
かつて私は女形を二度、御曹司(バカ息子)を何度か演じている。後者に関しては高橋克彦さんから「バカ殿をやらせたら純の右に並ぶものはいない」と高い評価を得ている(トホホ)。また、女形についても「ゲイ(芸とゲイをかけている)を確立した」と(トホホ)、これまた高い評価を得ていることをあえて記しておきたい。
盛岡文士劇は毎回チケットの入手が困難なことでもよく知られている。この点については抽選枠を設けるなど、実行委員会もいろいろと工夫しているし、我々出演者でさえ入手できないのだから、お許しいただきたい。
今年は例年にも増して競争率が高かったようだ。競争率が7倍を超えた先行抽選には、県外からの応募も多かった。これは、今年初めに紀ノ國屋ホールで行なった東京公演が大成功を収めた影響だろう。ニュースで何度も取り上げられたので周知度がいっきに高まったのに加えて、前からご存じだった方も「そういうことなら一度見ておこう」と興味を示した結果だと思う。
また、「東京公演はいつ?」という問い合わせも多かったという。毎年は無理だが、たとえば第25回とか第30回など節目の年に開催できるように今から準備を進めておく必要があるかもしれない。
座長の高橋克彦さんは残念ながら去年につづいて今年も声だけの出演となったが、やはり声だけの出演となった内館牧子さんと息のあったナレーションで舞台を引き締めた。内館さんは怪我の治療のために出演がかなわなかったが、「来年は絶対に出るわよ」と張り切っていらっしゃる。
舞台上の晴れ姿は見られなかったものの、私たちキャスト・スタッフにとっては座長の高橋克彦さんに裏から見守ってくださるだけでありがたい存在である。
〈このごろの斎藤純〉
〇年の瀬に私に課せられた4つのミッション(盛岡文士劇、私が編集長をつとめている月刊『街もりおか』の街の記憶座談会八幡町編、『街もりおか』創刊50周年記念特別号の準備、いわて震災短歌審査会)をすべて無事に終えた。あとは還暦初年の残りをのんびり過ごそうと思っている。
大場陽子作品集(私家版)を聴きながら

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